第7回 観音山丘陵の自然を守るネットワーク会議報告  平成19年9月25日午後7時〜
                                     高崎市総合福祉センターにて

講演「観音山丘陵のFauna(ファウナ)の変遷」 主に蝶類の衰亡について
      群馬の蝶を語る会  池沢 隆一

西野がビデオを再生して聞き取った内容を掲載します。一部、不明な所があり、省略しました。

目次
 *観音山周辺の蝶相の豊かさ
 *減った蝶、増えた蝶(変遷)
 *具体的な種の衰亡<BR>
 *観音山で見られる蝶類
 *蝶類及び環境保護のための提言
 *結語


  75年に高崎に来た。転勤でいろいろな所に居た。
  退職後、観音山を歩き回って調べたことをお話しする。
  Faunaとは動物相ということ。昆虫から哺乳類まで全部。
  本日は全部はお話できないので蝶の衰亡について話す。
  観音山丘陵は広い地域であり、植物相、ファウナが豊かである。
  地図の説明・・・カッパピア、城山団地、山名丘陵、自衛隊弾薬庫等


観音山に動植物が豊富な理由
*本来、動物相、植物相が豊かな場所であり、気候に恵まれていた。
*丘陵地が「風致地区」として保存されている。(市内平地を住宅地とし丘陵はリクリエーションの場としての位置づけが明確)
*有志による一部里山の保全活動も行われている

*地形的にも風水害を受けない安定した場所




  豊かな理由として、関東平野の北の端にあり、平野に面している。
   平野部が谷戸となって、谷が丘陵の奥まである。
     (今は米は作っていないが)
   丘陵が開発されずに残っていることが動植物の保護に役立った。



観音山の蝶類の概観
*現在までに記録のある種・・・80種
   因みに
*日本全国では・・・約270種
*群馬県では・・・144種
        (2006池沢「かみつけ」1号
*長野県では・・・約150種
*栃木県では・・・約140種


   種の数は迷蝶などがあるので、日本の蝶として良いのは270種。
    長野県は山岳地帯、川があるので多い。
    群馬県は日本の蝶の種の30%の種類がいる。





群馬県のRDB(レッドデーター)について
*群馬県産40種について記載(小出、2006「かみつけ」1号)
    絶滅種:7
    絶滅危惧種:14
    緊急種:8
    注目種:11
*因みに群馬県オフィシャルな記載種数:布施、55種




  布施先生のオフィシャルな記載の55種から、
  群蝶会機関誌「かみつけ」報告40種に変化している。


 観音山周辺の蝶類の衰亡
*群馬県RDB記載種が7種
  オオウラギンヒョウモン、ミスジチョウ、クロシジミ、ミヤマシジミ、ウラミスジシジミ、ツマグロキチョウ、ホソバセセリ
*現在でも見られる蝶は・・・74種
*うち3種はここ数年で数を増やしてきた
  ツマグロヒョウモン、ムラサキツバメ、クロモノマチョウ
*更に2種が今後分布を拡大する可能性がある
  ウスバシロチョウ、ホソオチョウ

 観音山周辺では、7種がRDB。
  見られる蝶74種。

  うち3種は増えている。
  10年前にはほとんど見られなかった。
  変化している。動いている。
  合併により2種が増えるだろう。

  ホソオチョウは外来種。


減少する蝶類
*絶滅種:1 オオウラギンヒョウモン
*絶滅危惧種:3 クロシジミ、ミヤマシジミ、ツマグロキチョウ
*危急種:1 ホソバセセリ
*注目種:2 アサマイチモンジ、オナガアゲハ


  

    絶滅種と絶滅危惧種はほとんどいない。


減少する原因
*本来の植生に頼って棲息するが、孤立した環境で周辺からの「供給」がない
*丘陵地の伐採、宅地化が進んで来た。
*環境の変化
  伐採による植物相の変化、及び乾燥化による不適応、気温の上昇・・等
*害虫対策の薬剤散布
*不明な部分も多い

 

  植物はあっても飛ぶ力がない種は孤立してしまうと駄目。
  環境がつながっていないと駄目。
   団地、川など
   原因が分からないことも多い。



増加する蝶類
  ツマグロヒョウモン
  ムラサキツバメ
  クロコノマチョウ
  モンキアゲハ
  ムラサキシジミ
   以上は南方系の蝶である


 南方系の蝶の増加・・・明らかに暖かくなっていることを示す。
 ツマグロヒョウモン:10〜15年前は採れると大騒ぎだった。
             今はスミレの害虫といわれ、すごい勢いで増えている。
 クロコノマチョウ:80〜90年代に桐生、太田で発見された。
 モンキアゲハ:カラスザンショウなどが食草。沼田の方で繁殖。
 ムラサキシジミ:シラカシ、アラカシの伐採により土曜芽が出ると、増えるとされる。

 

増加する原因
*人為的に持ち込まれたが、気候、環境に適応している
  (寄生、植生、棲息環境)
*環境の変化(気温の上昇・・・越冬可能化)
*ホストが環境変化及び人為的に北上、移動
*競合種の衰退
*不明の部分が多い

 

 植栽による移動。
 人為的かどうか証拠がない。データーが必要。
 理由がわからないものも。
 ヒートアイランド減少だけでは片付けられない。


既に絶滅したと思われるか、なたは絶滅に瀕している種
*オオウラギンヒョウモン
   群馬県RDBでも絶滅種
   1953年高崎観音山の記録・・・・1976赤城昆虫同好会「赤城」
*クロシジミ
   群馬県RDBで絶滅危惧種
   1972布施「群馬の蝶」
*ミヤマシジミ
   群馬県RDBで絶滅危惧種
   1989.May。28 高崎市阿久津町烏川・・2003大橋「乱舞」13号


  (写真説明)
  ミヤマシジミは現在県内では一箇所のみ






近隣では棲息するが観音山では絶滅したと思われる蝶
*ツマグロキチョウ
  群馬県RDBでは絶滅危惧種
  1978〜1980秋高崎市野附町で確認
*ウラミスジシジミ
  1976赤城昆虫同好会「赤城」
  源治では観音山周辺には棲息していないと思われるが前橋、榛名町では
棲息している。
*スジボソヤマキチョウ
  1978年秋には確認・・・2001池沢「乱舞11号」






 ウラミスジシジミ・・クロウメモドキが食草。
             前橋より北にはいる。



極めて減少している種
 *ミスジチョウ
    吉井町、前橋市などでは棲息している。記録は少ない
 *ホソバセセリ・・群馬県RDBでは危急種
    90年代後半頃から急速に減少傾向にある

 ミスジチョウはカエデが食草。
 ホソバセセリは太夫沢にたくさんいた。
 90年代頃から減った。
 食草もあるのに減った原因不明。
 気候や寄生の関係もある。


現在では個体数は多いが生息域が狭く、
減少が懸念される種

 *ウラゴマダラシジミ
 *アサマイチモンジ・・・群馬県RDBでは注目種
 *オオムラサキ
 *ギンイチモンジセセリ
 *オナガアゲハ・・・群馬県RDBでは注目種

 アサマイチモンジ・・狭い範囲しかいない
 オオムラサキ・・エノキが食草。お気に入りの木がある。
           木の下の様子など。
           その木が切り倒されると同じような木が脇にあっても来なくなる。
           幼虫は木の下で越冬する。
           群馬の森にもいたが、葉っぱを掃いて燃やすのでいなくなった。

 オナガアゲハ・・食草のコクサギは観音山にたくさんあるが、成虫はほとんど見ない。
           原因不明。


 

減少する種の現状
 1.ウラゴマダラシジミ
 2.オオミドリシジミ


 
  
この種を選んだ理由
  *Stageが調査に適している(卵木が10ヶ月、卵越冬)
  *産卵部位が観察容易
  *生息環境が多い
  *古くから「本来のFaunaとして棲息



   

       ウラゴマダラシジミ
*食樹:イボタ、ネズミモチ、ハシドイ、ライラック
*生態:成虫は樹林性、訪花性、夕暮飛翔性などが顕著
  (ゼフィルス)
*Stage:成虫は5月〜6月頃出現、イボタの樹表に産卵、
卵はそのまま夏、秋、冬の約10ヶ月を過ごし、3月頃孵化、
若い葉を食べ約1ヶ月で蛹化〜羽化する
*東北、九州など一部を除いて全国に分布





 イボタは観音山にいくらでもある。小さいイボタが好き。
 周りの草が茂ると枯れてしまう。卵は1mmちょっと。

 80年代:ゴルフ場がなかったのでいた

          

      
 

        減少した原因
*食樹のイボタは不要樹のため伐採
*林床が暗くなってイボタの若い樹が育たない
*乾燥化(本来水辺に沿ったやや薄暗い小さなイボタを好む)
*発生地の開発

   

   若い樹が好き
   尾根道のイボタは好かない
   谷のイボタが好き



オオミドリシジミ
*食樹:コナラ、クヌギ、アラカシなど多くのブナ科木本
*生態:イラゴマダラシジミと同じゼフィルスである。成虫は樹林性が強く樹冠飛翔、産卵は薄暗いところを好む
*Stage:ウラゴマダラシジミとほぼ同じ、成虫発生期は5月末から7月に及ぶ
*分布:九州、四国南端を除く全国

 卵は、冬は草がない所で夏は樹が茂って直射日光をさえぎる所を好む。
 コナラのヒコバエ、小さな木。好みが限定している。





    

     洞窟観音のところにいたが最近いない    

      減少した原因
*林床が暗くなり(アズマネザサなどの繁茂)、
ホストのコナラなどのひこ生えが減少
*林縁を好むがブナ科木本そのものが減少
*植林の放置、落葉広葉樹林が放置され荒廃、
樹勢が衰え発生木として適当でなくなるところが
増えた。
*発生地周辺での吸蜜源も減少



      増えた蝶の現状
   ムラサキツバメの分布拡大

 1.1998年8月に前橋市で初めて採集された。
 2.2000年埼玉、2001年茨城、栃木と発見
 3.2002年には高崎市内でも発生を確認
 4.現在全ステージが確認される
マテバシイ植栽のところで毎年分布を拡大している
  人為的な要素も考えられる。
  いつから増えたのかなどのデーター大切。
  5〜6年で広がった。
  温暖化だけではない。
  マテバシイ植栽。害虫がつかないため。
  カシグネを剪定すると新芽がでる。そこに卵を産む。


  


植物相について
*減少した植物・・・在来の植物が駆逐され、あるいは衰退
*外来生物・・・特定外来生物の侵入
*問題ある植生・・・アズマネザサ(篠)の管理、植林の放置

 アズマネザサが茂ると極端に光量がうばわれる。
 管理しないといけない。
 (減っている様々な植物の写真を紹介)
 葛が繁茂すると他のものがダメになる。


外来生物
*外来生物(帰化植物)
   かなり旧い時期に持ち込まれたもの
     (本来植生と共存している)
   本来植生と競合して駆逐する恐れのあるもの
     (要注意外来生物)
*特定外来生物(既に害が認められたもの)
   オオハンゴウソウ、オオキンケイギク










外来生物(蝶)
現在要注意外来生物指定であるが、本来生息生物に影響を与えるか不明
 *ホソオチョウ・・・観音山にはいない
    90年代後半頃から渡良瀬川水系に棲み付き、現在桐生周辺、栃木県西部に広く分布を広げている。
    最近高崎郊外の箕郷町でも発見された
    (ジャコウアゲハの発生に影響を与えるかの懸念がある)



現在良く見られる蝶類
春:ミヤマセセリ、ツマキチョウ、コツバメ
夏:ベニシジミ、サカハチチョウ、クロヒカゲ、コムラサキ、
 ジャコウアゲハ、ジャノメチョウ、キマダラセセリ、
 メスグロヒョウモン、ダイミョウセセリ
秋:ウラギンシジミ、ヒメアカタテハ
成虫越冬種:キタテハ、ルリタテハ

城山観察会(7月16日)で見られた蝶
取れた種類とホスト
 ヤマトシジミ・・・カタバミ
 ツバメシジミ、ルリシジミ、キチョウ、モンキチョウ・・・・・マメ科草本、木本
 モンシロチョウ、スジグロシロチョウ・・・アブラナ科
 ジャノメチョウ、ヒミウラナミジャノメ・・・イネ科草本
 キタテハ・・・カナムグラ
 ツマグロヒョウモン・・・スミレ類
 アゲハ・・・ミカン科(植栽植物)
 ベニシジミ・・・ギシギシ、スイバ

  このように蝶相が豊かな観音山
   であるための条件

 *種の供給源があること(生息域が孤立しない)
 *植物相の現状維持及び旧に復する
 *環境の保全(乾燥化、単一植生化の阻止)
 *不要な外来生物の除去または隔離及び管理
 *適当な里山管理(除草、伐採、害虫駆除)
 *訪問者への意識付け
 *計画的な保全

             提言
*自然を保護するためには「多様性」を維持しなければならない・・・
 どのようなFauna,Floraで構成されているかの継続的な調査
が必要 (先ず現状を知ることと出来る限り過去の推移も)
*そのためのデータ・ベースや活動拠点が必要
*経済効果や目先の投資でなく、長い眼で見た対策が必要
*我々の子々孫々、その先につながる「環境保全」のたたき台
を今から作るべきと考える。

                 結言
*何故生物が衰退の方向にあるのか、また一部外来生物が繁栄するのは何故なのか、
 ほとんど分かっていない。
*次代を担う子供達に虫や雑草に興味を持って貰う教育が必要
*環境保全に対する意識を啓蒙する必要性
*廃棄物、建造物、公共施設等に対する管理も含めた「里山の管理」を計画的、総合的
 に進めるための提言を行える組織が必要

質疑・応答(皆様の意見をまとめました。)
 蝶と蛾の違い・・ほとんどない。一応、触覚の形が今棒状なものは蝶。繭を作るものが蛾というわけではない。
 蝶の移動・・・種類によっては4〜5千`飛ぶものも。50〜100mしか飛ばないものも
 里山の管理・・・放置される理由がある。種を決めて残す。決めた種だけ一斉に抜く。などの活動例がある。
           生態を考えて管理の時期を配慮する必要。
 身近な生き物に興味を持つことは楽しい。ネットの会、群蝶会の交流を通して充実。昆虫少年育成目指そう。