1988年
8月1日発行
No.10

               

             救急車

救急車のサイレンの音は何とも気になるものです.胸がしめつけられるような音ではなく、もう少し柔らかな優しい音にならないかなとは思います。しかし遠方まで音が達し、道路通行中の他の自動車に警告を与えるためには仕方のない事なのでしょうか?

開業以来,平均して年間200回の救急車の来院があります.開業13年で2,000回以上……なかには色々の想い出があります、充分に対応出来て、患者さんにも喜ばれた時は、自らも充実感を覚えたものです。一方では来院時すでに亡くなられていた方も多数ありました.

小学一年生の脾臓破裂の女の子が来院、みるみるうちに悪化し、緊急手術をすべく日赤病院に救急車で搬送しました.救急車に同乗している時は、親と共に早く病院に到着するよう気があせったものでした、直ちに手術室に搬送し、輸血開始、雑事の手伝いをしながら、開腹、脾臓摘出が無事済んで、救命確実なことを見届けて帰院した事もあります.

このように苦労と時間をかけても、特に苦痛を感ずる事は一度もありません.しかし、救急車で来院する方の中には腹立たしくなる場合もあるのです。酔っていばって治療に協力していただけない場合です.名前を聞いても答えず、家族さえ呼ぶことも出来ない訳です.運悪く、このような時は深夜になることが多いのです,やはり酒はほどほどにしていただきたいと思います。

老人の方や深酒をする可能性のある方は、身分を明らかにする身分証明書、名刺、医院の受診券などを常に携帯していると診察する身にとっては非常に便利だと考えます.

さて、救急車で来院する方の中には、その必要性のなかった人も多数あります.単純な手足の切り傷や、軽い頭部打撲の場合です.驚きあわてたか、医院まで連れて来てくれる人が見付からなかった等の理由です.この位はまだ許せる範囲です、一人暮らしの方が早朝道路に出て公衆電話をかけ、救急車をタクシー代わりにして来院したこともあります,早朝といっても五時前.眠い眼をこすり診察すると、下肢の数日前の古い傷でした.

安易に救急車を利用すると行政側から、不要な出費とみなされ、他県のように有料となる可能性もあるのですから注意が肝要です.

緊急事態に居合わせた場合、呼吸が楽になる体位にして、バンドなどをゆるめ、医師に連絡したり、救急車を呼んだりしましよう、自宅に居られる場合、保険証、タオル、下着等の着替え、紙オムツなど用意しておきましょう.一般的にいって意識がしっかりし、自力で立てたり、顔色がよい場合、決してあわてる必要がないものです

(院長)