2003年
11月1日発行
No.101
片顔面痙攣

  私が脳神経外科医になってから、眼瞼がピクピク動いたり、片側閉眼して満足に視界が得られなくなったり、顔面が引きつれて歪んでしまう方々の相談を受けても、ほとんど治療が出来ませんでした。その後、耳介後部顔面神経の出口を神経ブロックすることを始めましたが、深い部位を長い針で確実に刺入するのはなかなか困難なものでした。また施術には痛みを伴い、成功しても、再発がありました。
 次いで、顔面神経減圧術が群馬県にも普及してきました。私自身は行いませんでしたが、前橋赤十字病院にお願いし、手術後かなり有効な結果を得ていました。しかし、かなり顔面神経痙攣がひどく、いつも顔面が歪んでいるような方でなければ手術治療に応じてはもらえません。
 不快であるが、人目を避けて、しのんで暮らしてきた方にとって、かなり有効な治療法が、数年来日本でも行われるようになりました。ボツリヌス毒素注射法です。
 8月下旬、アラガン株式会社主催による講習会を受講しました。A型ボツリヌス菌毒素を少量、異常に緊張した筋肉に注射することにより、筋の弛緩作用が発現し、目的を達することができます。
 ボツリヌス菌は食品の中で繁殖し、毒素を産生し、殺菌されても残った毒素により進行性の麻痺、視力障害、腹部症状を来たし、死に至る場合も多いのです。
 アメリカで開発され、最近日本でも治験が終わり、臨床応用が行われるようになりました。毒素が不安定であったり、危険なため、取り扱いに充分注意しなければなりません。まだ日本の医療保険で認められておらず、私もこの治療を行う資格を得ましたが、現状では治療開始に踏み切らないことにしました。他施設で行っている治療現場を見学し、知識を積み、今後保険診療に適用されるようになるまで待とうと考えています。
 ところで、日本国内の製薬会社もこれに取組んで、国産の製品が産生されるよう願っています。
(院長)