2004年
9月1日発行
No.106
顔面神経麻痺

 脳障害で半身麻痺が出現したとき、同時に同じ側の顔面神経麻痺を来たすことは一般によく知られています。一方、顔面神経麻痺だけを来たした方がよく外来にいらっしゃいます。このような場合は脳とは無関係の末梢性の麻痺で、医学用語ではベル麻痺などと名付けています。これは、最近単純ヘルペス
ウイルスが原因ではないかと考えられています。そのほかに、耳介付近に出来た帯状疱疹ウイルスが原因となる場合はハント症候群と呼ばれています。
 麻痺に対して、初期にはステロイドや消炎鎮痛剤、明らかにウイルスが原因と考えられるものには抗ウイルス剤を用います。麻痺が強いと眼瞼がよく閉じず、眼球表面が乾いてしまいますので、必要に応じて点眼薬や睡眠時には湿性眼帯を必要とすることがあります。
 多くの場合、同側の味覚障害を来たし、食物が口角部からもれやすくなり不自由をします。
 また早期に来院したにもかかわらず、運悪く顔面神経が強く侵された場合は治療に反応せず、1週間位症状が進行してしまうことがあります。私は薬物療法と同時に鍼治療を併用しています。
 麻痺はあっという間の短時間で生ずるのに反し、改善は早くて3週間、長い場合は半年にも及びます。神経の再生速度は1日に2〜3mm程度なので、10cmに達する神経では長い時間を要します。患者さんも、自ら鏡を見ながら、顔の筋肉を動かす等のリハビリが必要となります。
 運悪く、眼瞼を閉じることが出来ない方には眼瞼に金の小坂を入れ、おもりの作用で閉じさせます。さらに重症の方には側頭筋の一部を眼瞼に移行させる手術もあります。
 年余にわたり、回復が不良で口角などが下がってしまった方には、神経を長くつけた筋肉を移植して、反対側の正常な顔面神経と連結させる方法もあります。
 笑うと顔面が歪んでしまう方には、麻痺後何年経ても手術可能な時代になったようです。
(院長)