2005年
11月1日発行
No.113
書評 とび出せドクター

 待合室に置いてある本を読んでいただけるでしょうか。著者は私に脳外科の指導をして下さった川渕教授の息子さんです。教授はホテルニュージャパンの火災によって亡くなりました。当時高校生だった著者はかなりの衝撃を受けたようです。東大工学部を卒業後、いったん社会に出ましたが、思い返して京大医学部に進学し、卒業後東京の病院で研修医として勤務しました。 「とび出せドクター」はその時の経験を書いたものです。医師として一人前になるには非常に時間と費用を要します。また医師の場合、現役で働いている限り一生涯、勉強が必要です。
 政府は新しい研修制度を作りましたが、これも大きな社会問題を形成しています。医師の場合、労働基準法がまったく無視されています。著者の研修内容にも、これがよく表現されています。医師によっては自分の将来の方向に合わせ、研修を上手に利用するように通り抜けます。著者は、あくまで患者さんに視点を合わせ、病気以外に患者さんの人間性まで追求しようという態度には感心させられました。
 一方、著者は育った環境が良かったためか、年齢に比して多くの人に会い、庶民的体験が少なかったのかもしれないと一思いました。そのためか、医師になる前に"パチプロ"の体験をしたり、無理して社会的底辺の経験をしているように思えました。しかし研修医の期間中は集中し、自分の生活を投げうって、診療にのみ自分の人生を捧げる働きをしています。人に働かされているのでなく、自分の意志で医師の本分を追求したから研修期間を全うできたのだと思います。
 医師の研修も勤務場所でさまざまです。著者の環境より楽なところもあれば、さらに上を行く過酷な場合もあります。いずれにしても収入は新任の看護婦さん位がそれ以下で耐えています。・小説は主人公の医師が新しい病院で、今までの経験を生かして働くところで終わっています。続編で、是非患者さんに喜ばれる、医学の進歩に寄与した診療が行われている結果を報告していただきたいと思います。
(院長)