1989年
5月1日発行
No.14

               

     パーキンソン氏病

大多数はお年寄りなのですが、なかには比較的若い人にも認められます。今から170年も前にイギリスのパーキンソン医師によって体系づけられた病気です.手足がふるえる、体がすくむ、言葉が思うように出ない、顔の表情までがかたくなる、時には優うつになったり、幻覚などが表われる場合もあります.私の医院にも何人かの方が通院しておられます.

薬を服用してよくなった方、中には残念ながらお亡くなりになった方もおられます。

私が大学を卒業した時には大した治療法がありませんでした。だんだん学問が進歩するにつれて、脳の中心部に近い黒みがかった小さな部分、黒質線状体にドパミンという神経伝達物質が欠亡するために生ずることがわかって来ました.

それ以外の物質の働きに異常があることも、現在追及されており、治療面でも進歩がみられつつあります。ドパミンそのものを投与しても無駄であり、その誘導体(化学的に構造を少し変えたL一ドーパ)が有効であり、現在広く用いられています。しかしはじめ少量で効いたものが、次第に増量しても効かなくなったり、副作用も表われたりして来ます。そこで、ブロモタリプチン、アマンタジン、トリヘキシルフェニジルなどを色々と組合わせて投与する場合もあります。

それでも仲々思うように行かない場合もあります.便秘、吐き気、食欲不振、消化系疾患などの合併症をもたらす場合もあります.突然、自己判断によって薬の服用を中断するとパーキンソン氏症状の悪化、肺炎、なかには意識障害を生じたりします.くれぐれも注意が必要です。

薬効の持続をはかるために、医師が患者さんの状態を見ながら、一時的に中止したり、用量を変更する場合はあります.最近はノルエピネフィリンという物質の減少も明らかにされつつあり、内服後体内でこれに変化する、L―スレオー3、4ジヒドロキシフェニルセリンというむずかしい名の薬を投与する場合もあります.

薬物が無効な手足のふるえの止まらない人(パーキンソン氏病以外のふるえの病気の人も含みます。)には定位脳手術が行われる場合もあります。細い電極を脳の視床の或る微細な部分に当て、焼灼することで、治る場合もあります.群馬大学でもこの手術が行われ、今秋には、前橋でこの方面の国際学会が開かれる予定です。興味のある問題、治療法の進歩について、次の機会に紹介したいと思います.

(院長)