2010年
7月1日発行
No.141

    

認知症のアリセプトの投与について

 

アルツハイマー型認知症にアリセプト(ドネペジル)が有効と認められるようになってから、10年が経過しました。私も多数の患者さんに投与してきました。認知症はそれ自身、進行性の病気であり、人間は全身の老化と共に脳も老化します。この薬は、短期間の投与で有効性を認めるのは非常に困難です。

私自身の統計はありませんが、多数の症例を扱っている施設では、投与1年迄は大きな変化を認めず、2年後から有意に認知症の悪化があり、その後緩徐に悪化していったそうです。投与しない群に比べると、認知症の進行を明らかに遅らせる効果があったそうです。私の経験では、患者さんの家族は、投与して1〜2箇月で認知症になる前の状態に近づくと期待しています。実はこのようなことは極めて稀であることをご理解願いたいと思います。

最近アリセプト10mg投与が、重症のアルツハイマー病の方に適応となりました。5mgを投与して効果がないからといって、家族が増量を希望する場合もあります。しかし高濃度のものは相応して副作用も増加する傾向があるようです。本来この薬は純粋なアルツハイマー病に有効な薬として開発されています。実際に多くの診療施設や私の医院でも純粋なアルツハイマー病の人は少ないのです。多くの場合、脳出血の痕跡、脳梗塞、白質病変、脳萎縮などの疾患を合併しています。これらの疾患は加齢と共に少しずつ進行していくのが常であり、アリセプトで抑制することは困難です。これらの病態は「混合型アルツハイマー病」または「脳血管障害を有するアルツハイマー病」と言われています。薬以外に、日常生活の中にも認知症の進行を遅らせたり改善させる方法があります。家族が協力し、字を忘れないために日記などを書くよう指導したりいろいろな作業を継続できるような環境作りをすることです。常に意欲を持たせるよう、毎日の努力が必要です。

(院長)