1989年
11月1日発行
No.17

               

     脳神経外科領域の進歩について

10月3日より5日迄、県民会館で、群馬大学脳神経外科教室大江教授主催により、4年に1度の第10回世界定位的機能的脳神経外科学会が開かれました.多数の著名な学者の講演が有益でした。この学会では主に脳の病変部の位置を正確に機械、コンピュータ画像などで応用して定め、治療に応用する領域で、脳外科方面でも重要な役割を占める分野です.

開業医ではとうてい行い得ない設備や器具を必要とする分野もありますが、これらの治療を必要とする患者さんはこれから増加する可能性があります.時間を割いて聴講したことが、今後日常の診察に生かして行ければ幸いです.

定位脳手術は当初、手の振えが継続するパーキンソン氏病などの治療に脳の視床という深い部分に細い電極を刺し、微細な一部を電気凝固することで、有効な方法として確立されました。現在では多方面にこの技術が応用され、発展しました.難治性のてんかん領域において、脳の一部を切除したり、特定の神経伝導路を遮断したり、特定の場所に電極を埋込んで電気刺激を与えたりする方法が試みられています。全ての例に成功する訳ではなく、充分に選択が必要です。

次いで痛みの改善のために脳や脊髄の神経節、核、線維を正確に破壊、又は刺激することが試みられています.著しい三叉神経痛や癌の浸潤による耐えられない方のために福音となりました.パーキンソン氏病がドパミンという物質の欠亡があることが知られ、脳内でこれを補うため腎臓のそばにある副腎という組織を脳の特定の場所に埋込み、生着する方法が開発されました.良い結果が出るには何年もかかると思われます。痴呆や他の神経変性疾患の治療も可能になるかも知れません。

臨床的に高い評価を与えられたのは脳の深い場所で開頭では到達出来ない位置の腫瘍や血腫の治療です.昔では出来なかった事が実現可能となりました。特に関心が惹かれたのは脳の深い場所にある脳動静脈奇型の治療に、病変部に正確にガンマ線という放射線を当てる装置が開発され応用されていることでした。未だ日本にはなく、私も本年7月この血管病変を有している患者さんを発見し、外国での治療状況を説明したことがありました。患者さんの要望と希望にこたえ、日本でも多くの若い脳外科が努力して研究していることに非常に意を強く致しました。

院長