1990年
3月1日発行
No.19

               

     お年寄りの交通事故

老年者の脳の疾患について前回書き、続編を今回書く予定でしたが、突然変更する事にしました。1月27日、当医院の最高令者の町田文之助さんが、自転車で通行中、自宅附近で自動車にはねられました。直ちに救急車で当医院に運ばれて来ましたが、呼吸はすでに停止し90才の命を終えられました。

町田さんは当医院より1q位北に住み時々健康チェックと軽い不眠症で通院していました。4〜5年前ハシゴより転落し腰部を打った位で極めて健康で、自転車にて敏捷に行動し、通常の70才の人と比べて外見、記憶力、判断力の低下はなく、自分でも「100才迄生きられるかも知れない」と常々言っておりました。兎に角、病気でなく、本人の不注意でない交通事故によるお年寄りの非常な死や重症外傷の方が目立ちます。当医院の過去の死亡診断書を調べてみました。

211例の死亡者の中で、交通事故に関連した方は47例でありました。60才以上を老人とすると16名、70才以上では10名と比較的多い割合です。10代の8例がその他目立っのですが、内容を調べますとほとんどが暴走事故によるもので、お年寄りの被害者的立場にある事故という観点からすると全く様相が異なります。お年寄りの行動をみますと、自動車を運転された経験のある方は少なく、自動車の速度を判定しにくく、停車するまでにかなりの時間と距離を要することが認識できないことがあります。次いで人により視覚や聴覚の衰えから近接して来る危険より身を避けることが充分でなくなります。是非周囲の状況を注意され、服装も目立つ色にして・運転者に注意を促すものにしていただきたいことです。

最近特に気付いている事は、被害者になった方は事故の情況が意識障害を来たすため証言が出来ず、加害者側の一方的な証言が採用される傾向のあることです。お年寄りはここでも被害者です。保険会社は被害者の過失を強調し、保険金の支払いを減額しようと汚い論戦を張ります。医院側もしばしばこれに巻き込まれることもあります。

お年寄りは事故が原因で様々な合併症も併発し易く、また仲々治癒しない傾向にあります。運悪く合併症で亡くなると交通事故による直接死亡原因でないと、また保険会社が介入して来ます。医者と患者さんの信頼関係にも波及し、伸々やりにくい世の中になって参りました。道路に出たら、命がけで気をひきしめていただきたいと思います。 

(院長)