1991年
5月1日発行
No.26

               

     アルコール依存症

以前はアルコールの誘惑に負けてしまい、酒びたりか、どうしてもアルコールを中断できない人をややさげすんだ言葉で「アル中」と呼んでおりました。本人も自虐的になり、劣等感で悩ませられることになったものです。近年はアルコール依存症という言葉が用いられています。要するにアルコールの過剰な摂取によってひき起される身心的、社会的な現象と解されます。

日本人一般のアルコール許容量はどの位なのでしょうか?日本人は欧米人に比して、一般に肝臓でアルコールを分解する酵素が少ない人が多く、およそ日本酒で3〜4合位と考えられています。しかしながらこの量は、大分実際には個人差があるものです。この許容量を常に越えていると、次第に毎日アルコールを飲まないと不安で、何となくすっきりしない気分になります。そこで自制心が働かず、許容量を超えて飲み続けますと、アルコールが体内からなくなってくるに従い、手が振え、冷汗が出てどうしても酒が欲しいという渇望が出現して来ます。

アルコールによって脳細胞の代謝が変化したり、細胞自身の変性が生じると、時にはてんかん発作、振せん、幻覚などが起きたり、更に進むと痴呆、コルコフ型精神病(もの忘れ、時間や場所の観念の低下、うそを言う)、嫉妬妄想がみられます。未だアルコールによって脳細胞の変化が生じないうちに中止すれば、元のように健康になれる訳です。依存症状態にある時、突然アルコールを中止した状態で出現する、前に述べたような手の振るえ、発汗、自律神経の興奮状態を退薬症候群とも言います。アルコールが一種の麻薬とも相関して考えられる表現と言えます。

この状態をうまく乗り切れ、このまま長期間飲まなければよいのですが、ちょっとしたきっかけで再び飲み始めると、簡単にまたアルコール依存症に逆戻りする傾向があります。このようなアルコール多飲の人の80%に肝障害が認められ、そのうち肝硬変に至る人は20%位だそうです。

自動販売機によって誰でも簡単に酒を買え、一人当たりのアルコール消費量は1950年頃の5倍となり、それに比例して肝硬変による死亡者も増加しています。その他男血性胃炎、食道静脈瘤、食道癌、糖尿病、大腿骨頭壊死、アルコール性筋萎縮等、きりがありません。

飲みすぎに注意しましょう。

                               (院長)