1991年
7月1日発行
No.27

               

     抗菌剤(抗生物質等)の今昔

今から三十年前、私が大学を卒業し、インターン生になった頃(この制度は廃止され、卒業後直ちに国家試験を受け、合格後は速やかに医師免許証が交付されます)、実習をかねてあちこちの病院で働きました。その頃は抗菌剤の種類も量も少なくて、かつ高価であり、思うように使用できませんでした。サルファ剤もかなり用いられていました。これは現在、全くというくらい使用されていません。そして一般の感染症に対しても、非常に手こずったものでした。些細な足の傷から下腿骨の骨髄炎になったり、全身的、重篤な感染症もみられました。ペニシリン製剤等によるショックも頻繁にありました。この頃ようやくセフェム系の薬剤が登場しました。最初は少ない量で、著しい効果がありました。この世から感染症がなくなるかと思いましたが、さにあらず、直ちに細面群の巻き返しが始まりました。耐性菌の出現です。薬が以前より有効でなくなったのです。

そこで一層の研究が進み、薬の改良と新薬の開発が次々と行われました。しかしその都度細菌の反撃に合いました。そのうちに細菌の薬剤に対する耐性が直接に薬剤にさらされなくても認められ、細菌同士の接触により、耐性の性質が伝達されるこ.ともわかって参りました。

現在非常に沢山の抗菌剤があり、その種類もペニシリン系、セフェム系、アミノ配糖体等、分類しても大変な数です。より耐性が得られなく、副作用も少なく、有効な薬剤となりつつあります。

私の薬棚にも、薬屋さんの素晴らしいパンフレットに魅せられて・新薬が並んでいます。こんなことが日本全国に及び、新薬の使用量が増加し、また耐性菌の出現が繰り返されるのです。

ある細菌では新薬では効きにくく、古くても適切な薬剤を選べば非常に有効な場合もあります。しかし化膿性脳脊髄膜炎になると、昔も今も変わらず手こずります。脳実質に浸透する薬剤が少ないためです。その他、抗生物質を用いたがために、新たに生じた真菌(カビの一種)の感染も困りものです。これに有効な薬剤が少ないのです。さらに肝炎やエイズのようなビールスという、細菌よりはるかに小さな微生物に有効な薬剤はありません。これはワクチンの使用で対抗するより方法がありません。早い研究の進展を望んでいます。

                               (院長)