1991年
9月1日発行
No.28

               

     抗菌剤(抗生物質)の今昔 その2

前号において、書き足らなかったことがあり、追加することにいたしました。しかし話があまりに専門的になり、理解が困難かとも思われます。又逆に誤解の原因になるかも知れませんが、疑問のある方は院長に質問して下さい。

最近、特殊な耐性菌が広範囲に出現して抗生物質が効かなくなることが、しばしば報告されるようになりました。当院では重症感染症で未だ大きな問題は生じていないのですが、大病院では非常にやっかいな問題も生じているようです。

30年前は黄色ブドウ球菌を中心とするグラム陽性球菌(特殊な染色法で菌を染めケンビ鏡で鑑別します)が病原菌の主なものであったそうです。これらがかなり今迄開発された抗生剤で抑えられて来たのです。しかしより改良された第3世代のセフェム系薬剤が用いられるにつれて、耐性菌が出現しました。メチシリン(M)、耐性(R)、ブドウ球菌(SA)、MRSAと言われている菌群です。これがセフェム系、ペニシリン系、アミノグリコシド系と多数の薬剤に対しても耐性を示すのです。

この細菌は少量であれば特に問題をひき起こすことなく、健康な人の咽頭粘膜にも存在していることもあるそうです。いったん体が弱ったり、手術操作が加わったりすると頭を持ちあげて来るそうです。抗生剤の投与により、菌交代現象を生じて病原性を発現するわけです。

抗生剤投与によりブドウ球菌が突然変異をする説がありますが、元々わずかな数で混在していたMRSAが、他の細菌が減るにつれて増殖するということです。その他に院内感染という問題もあります。

予防には患者さんも常日頃、体を清潔に保つことも必要ですが、医療関係者の心掛けも重要であると言えます。昔から行われている基本的な消毒や清潔の知識をもってしっかり対応し、必要以上に大量の抗生物質を長期に用いない等の配慮が必要となっています。私達からすれば大病院に是非立派な対策を講じて戴きたいと考えています。廻り廻ってそろそろ私達のような小さな医院にも影響を及ぼして来ることになりそうです。一生懸命治療をしても、患者さんからみれば結果として目的を果たしていない事になってしまいます。今の所細菌にやられ放しではなくて、人間の方も次々に対策を講じています。よい解決法はあると期待しています。

                               (院長)