1991年
11月1日発行
No.29

               

     突然死について

今年になってから、いわゆる突然死(サドン・デス)で不幸な転帰をとられた方に何人も遭遇し、何とかならないのかと考え込んでしまいました。一家の大黒柱であった方が数時間前又は数分前迄元気でいたのに、救急車到着時には心肺機能停止の状態になっています。体はまだ温いのに何とかしてと訴えられ困ってしまった事もありました。

救急指定医として働いて来た過去16年間に死亡診断書を書いた241人の中で突発的に亡くなった方は32人です。60才以上の方は脳卒中や心不全と元々原因となる老化や疾患があるのに反して、60才以下の15人の方々のうち、明らかに脳卒中と診断出来た方は4人でした。その他の方は原因不明で取りあえず、心不全という診断となりました。

最近20代の3人、30代の1人、40代の1人と不慮の結果をみるにつけ、何とか原因を追及する必要があるのではないかと考えています。本来は解剖させていただいて、究明するのが正しいのですが、色々と制約があり、手をこまねいて来ました。

参考迄に突然死はなぜ起る (熊木敏郎博士、日本プラニングセンター発行、1990)を読みますと、N大学救急センターでは年間に700例近い方が、循環器疾患で突然に死亡されています。近年循環器系疾患の方の急死が増加していると言われ、小さな医院での出来事もこれを反映しているのかも知れません。

アメリカなどでは中高年において心臓疾患が主要な原因だそうです。職業としては学校用務員、管理人、保守保安係の人が多いといわれます。私の検案した中に電信業務中、深夜に亡くなった27歳の方がいました。食事もアメリカ型に近づいて、死因のパタンも似て来ているのかも知れません。

突然死の本態は不整脈(心臓のリズムの異常)による電気的死亡であると言われています。その機能障害は心臓の電気刺激系にある可能性があります。

これが複雑にからみ合って心停止に導かれるということです。その他睡眠中に突然亡くなってしまう方もあります。青壮年急死症候群(ポックリ病)とも言われ、急死の原因が心臓にあるとみられる場合が多いそうです。又ピクウイック症候群と言って、太った若い人が睡眠中に死亡するのは呼吸障害の可能性もあるようです。一方ストレスの関与もあり得るようです。

アメリカではアジア難民の突然死が頻発しているとの報告もあります。私も似たような例を経験しました。工業団地内の狭い部屋に大勢の人が雑居するアジア人の宿舎で27才の青年が命を落としました。突然死の予防は困難なのかも知れませんが、過労をしない、ジョギングなどでも無理をしない、心を平静に保ち緊張しない等のことが必要のようです。ゲートボール競技中、息をこらしてボールを打ちながら・亡くなってしまった老人が転送されたこともありました。現代社会では誰でもストレスにさらされて、楽しみも一転すれば逆効果になるかも知れません。

                               (院長)