1987年
6月1日発行
No.3

         脳死についての一考

このところ脳死の問題が社会的に再燃したので一言述べてみたいと思います。

脳死に関しては厚い一冊の本が出ている位で、少ない紙面で云いつくすことはとても出来ません.先ず脳死とは脳の広範な機能停止の結果、自力で呼吸をすることが出来ず、体温調節等の自動調節も不能になり、心臓のみ自動的に動いている状態です。

酸素が供給されなければ、まもなく数分から15分位で通常は心臓も停止します.この問に人工呼吸器を装着すれば、心臓のみ動いている状態が1週間から10日も持続します.この様な状態から意識の戻る可能性は有り得ないことなのです.

この時に学門的に脳死を確かめる方法や、厚生省の規準があります.多数の脳出血や頭部外傷を扱った医師にとっては、この規準で充分ではないかと考えています。しかし一部の人達からは「実際には脳死に至っていない状態があり、脳死と早めに診断される危険性が指摘されています.脳死に至った人の心臓や腎臓などを他の病気の人達に移植出来るからです。

いたずらに死を待つだけの人が実際には大勢存在しています.日本学術会議の「医療技術と人間の生命特別委員会」は多数の学識経験ある学者の集りです.ここでは「脳の死をもって、人間の死と判定すること」に対し、現在時期が早いと提案しました.しかしこの問題を10年も先送りにするのは考えものです。

国民の一人一人が、脳死で亡くなっていく方々、逆に臓器移植を必要としながら亡くなっていく方々の双方の状況をよく知る必要があります.

日本人には古来仏教思想により、遺体を傷つけたくない家族の感情が根強く残っています.一方臓器移植により、命が延び、人類の幸福のために協力出来る人達も大勢いるのです。世界の趨勢に合わせ、脳死となった方々の臓器が早急に利用出来る方向が望まれます.

                                      (院長)