1993年
3月1日発行
No.37

               

     欅 〜けやき〜

診察室の窓から、玉泉寺の欅を眺めると心が安まり、四季を通じて映り変る姿が気にいって居りました。

しかし新しく移り住んで来た僧により、すっかり切られ、口惜しい思いをし、その気持を院内新聞に10年前に書きました。その僧も又寺を捨ててどこかへ去って行ったそうです。

三年前に病室を増築したため、診察室の窓の視界がさえぎられ、玉泉寺は見えなくなりました。一昨年秋、二階の居室と診察室の窓から見え易い様に、鹿沼さんに欅の移植をお願いしました。奥さんと長女の夫である大橋さんも手伝って下さいました。皆さんは私の何十年来の付合の患者さんの家族の方々なのです。

謝礼は固辞されたため何分の一かの寸志で済ませる結果となってしまいました。

鹿沼さんが数か月探して下さり、結局ご目分で丹精され育てた若木を植えて下さいました。若木といっても幹の太さ直径20cm以上、高さ12mにも達するものです。昨年は枯らさない様に散水に注意しました。幸い根づいた様で芽もしっかり膨んでいます。姿勢のよい美しい枝張で、これから大木に育って行くのを見届ける楽しみがあります。

欅は以前より好きな木であったのですが、冬の落葉した姿もなかなか良いものです。天まで届けと真直に伸び、根は深く地中にあり、一部が地表に露出している古木は非常に魅力があるものです。

40年〜50年前、当院の南に流れている桃木川の流域には風情のある水車小屋があり、近隣の農家の裏庭には色々な大木があり、けやきも数多くみられました。どのようなわけかほとんど姿を消してしまいました。

しかし当院の近隣には幸いに未だ残されている所があります。当院に長く入院された菅野さんのお宅には数百年を経たけやきの大木もあり、古い土蔵と伸々よく映えたたたずまいを示しています。大木は材木としても大変な価値があるのでしょうが

是非切らずに代々残して頂きたいと思います。

私の欅も、切られることがなければ、今後百年以上経れば、素晴らしい木に近づくと思われます。私の子孫も邪魔になったからと云って、切らない様に祈っています。

   (院長)