1993年
5月1日発行
No.38

               

     動脈硬化症 その1

 

動脈硬化症は70才以上のお年寄りの病気と思っている方も多いと思いますが、いきなり年寄りになる訳ではなく、若い時より、次第にしのび寄ってくるものなのです。脳血管を手術で実際に触れた体験からすると、小児の血管は弾みがあり、且つゴムのように伸びます。一方動脈硬化を生じた血管は棒の様にかたく、所々黄色いまだら模様がついているのです。更に剖検脳を観察すると脳底動脈の一部は曲げると折れるという現実も体験しています。

未だ若いつもりでいる私もあと1 年で60才に突入します。さぞや動脈硬化もしのび寄っていることと思います。動脈硬化症の危険因子は高血圧症、高脂血症、喫煙、肥満などと沢山あります。これらのどれも重なれば更に進行することが知られています。

取りあえず、血中のコレステロールが、最も直接的な影響があるため今回はこの問題にしぼって、話をすすめたいと思います。コレステロールの血清濃度はどの位がよいのでしょうか。年令によっても大きな差があります。アメリカでは動脈硬化症の発生を予防するという観点から、200r〜240r/d1を軽度高脂血症としているようです。しかし実際に私達が日常診察している方々の値はむしろ200r/dl以下の人は少なく、220r〜240r/dlの濃度の方々が多いのです。日本ではこの程度の値では、肥満や中性脂肪が異常に多くない限り、必ずしも治療を必要としないと考えられます。

日本の食事とアメリカの動物性脂質を多く摂りがちな生活とは未だ差があるようですが、若い人ではアメリカ型になっている人が多くなっていると思われます。つい最近救急車で来院した外傷の17才の高校生は、168pで体重100kgでした。寝ていて呼吸するのも大儀そうです。このまま経過すると20年先は大変なことです。

日本では正常値をどこに線を引いたらよいか、偉い先生が色々研究して議論しているようです。

220r/dl位が一応の目安のようです。血清の善玉コレステロールと言われるHDLとの関係も重要です。肥満、運動不足、喫煙などの危険因子により、この値が低下すると動脈硬化が進行し、脳血管閉塞や心臓を養う冠動脈の閉塞が生じて、心筋梗塞が生じたりします。

動脈硬化症になる過程で痛かったり、気持が悪くなったりしてくれればよいのですが、何ともありません。私も時々ホテルで開かれるパーティに出席しますが、つい、誘惑に負けて、高エネルギーの食品に手を出し、満腹に近い状態になる事があります。60才になったら、是非この悪習慣に打ち勝ちたいと思います。

(院長)