1987年
8月1日発行
No.4

                   遺伝子工学と医学

最近植物学、動物学、医学等の多方面において、この分野の進歩は著しいものです.臨床応用も次々と行われるようになりました.私達開業医でも、数年前は考えられなかった治療が出来るようになりました。身近な例では、インシュリン(糖尿病〉、インターフェロン(抗ウィルス)があります。この度は私達が用いている成長ホルモンについて述べさせていただきます。今迄は人の脳下垂体を大量に集め、これより抽出精製していました.日本人は死後臓器を提供する習慣がないため、全て外国より製品を輸入していました。昨年より長期間の治療成績が認められ、日本でも遺伝子工学応用の人型成長ホルモンの使用が許可されました。

簡単にまとめてみますと、人の成長ホルモンの遺伝子を細菌のプラスミドという器官に組み込み、これを大腸菌のK12株の中に入れると成長ホルモンをつくりだす大腸菌が出来ます.これを大量に培養増殖させて、菌体内の成長ホルモンを取り出す方法です。いま使用している製剤は人体抽出のものとほんの一部だけ構造が異なっていますが、間もなく完全に人型のものが製品として出現します。

まだ非常に高価で、全て輸入に頼っているため、誰でも注射を受けられるわけではありません.東京女子医科大学の鎮目教授を中心とした成長科学協会で、下垂体機能が低下して低身長である人のうち、将来ホルモン投与後身長が伸びる可能性のある人が選ばれます。

当院でも、一人の患者さんに週に4回2年間続けました.注射開始後すでに20aも身長が伸び、医学の進歩に我ながら目を見張る思いです.この喜びを直接患者さんに語っていただくことにしました(2ページ参照〉。この様な有効な薬剤が日本でも大量生産され、誰にも用いられることを、更に多方面に遺伝子工学の技術が応用されることを望みます.

(院長)