1996年
3月1日発行
No.55

                

   歩きながら考える

1月末、昭和46年私が前橋赤十字病院に脳神経外科新設のため着任し、直ちに非常にお世話になった当時の北爪事務長さんより、一冊の本を戴きました。現在85歳ですが、現役で数々の公的な要職についておられます。本の題が経歴85年"と云うものですが、まさに先生の幼少時代より現在までの歩んできた詳細な記録です。

教師時代を経て、県庁で戦後の混乱期に様々な難問を解決されておられます。前橋赤十字病院が経営不振に陥り、事務長として着任した時は、現在の私とほぼ同年齢でありました。

記録を見ますと私などはとうてい及ばない仕事量です。私の在任中には経営も軌道に乗りっっありました。脳外科の診療のため、当時の最新の器具を導入して下さり、間もなく大学病院と同じレベルの仕事が出来るようにして下さったことを今でも感謝しています。.

さて表題の歩きながら考える"という言葉はこの本の中で、先生の信念、座右の銘として語られています。先生の文章の一節を紹介致します。

『歩きながら考える。それは私の実践であり、思想である。歩くことは性急に突走ることではなく、安逸に休止することでもない。物事の順序を踏んで一歩、一歩確実に進めることでありその中に考えることを取り込み、反省・考察・改善が伴い、速度感より堅実さと対応を求める仕事への姿勢である。』

私達医師にとっても、深く身に滲みます。例え救急の患者さんが来られても、日常より良い手順を考え、知識を整理、一歩一歩確実に蓄積しておく事で、最も安全に患者さんを救う道が発見出来る筈です。現在の北爪先生は未だ70歳位にしか見えません。目的を持って日々を充実させて生きることが、知力・体力を維持・老化を防止することになるのです。先生の益々の御活躍をお祈り致します。

(院長)