1998年
7月1日発行
No.69

                

   脳代謝改善剤の突如中止について

5月中旬、突然厚生省から発表があり、脳の細胞の機能を亢進させるとして許可されていた4種類の薬の使用が禁止されました。5月20日頃には薬が回収され、以来全国で使用されなくなりました。一部の患者さんには大変ご迷惑をおかけ致しました。ここにお詫び致します。

私が医師になってから、このように短期間に薬の作用が否定されて、使用禁止に至ったのは初めてでした。私の所でも、エレンとヘキストールという2種類の薬を用いていました。使用するに当っては、製薬会社呈示の文献をよく読み、前橋市内で開かれた製品説明の会合や各種学会に出席し、これらの製品の有用性を支持する大学や大病院の高名な医師の意見を拝聴したものでした。すでに上記の薬が10年近くも、日本全国で用いられてきたことは、製薬会社の美しいパンフレットや詳細な学術的説明に私たちがだまされてきたという結果になります。製品開発に当って、臨床的応用にかかわった医師の責任や、これを許可した厚生省自身の責任は重大です。

現場の医療を行っている者にとっては、高齢になるにつれ、痴呆や脳障害を伴った多数の方々を放置するわけにはいきません。新薬に有効なる判定が下されれば、使わざるをえない心境になります。今までたくさんの薬を用いてきましたが、どれも感心するほど有効であった経験はありませんでした。しかし一部の人たちには長期に使用した時、有効であった印象を得たことはあります。酒一杯でも人によりさまざまな反応を示すように、これらの薬の有効を示す判定は極めて困難です。

今のところ、痴呆やボケに有効な薬はないというのが正しい見解です、しかし、製薬会社または脳の研究者は真に有効な薬の開発を目指す必要があります。厚生省もこの開発の芽を摘んではならないと思います。

(院長)