1999年
5月1日発行
No.74

          

脳死と臓器移植

今から14年前、院内だより第3号で脳死について書きました。当時は日本学術会議「医療技術と人間の生命特別委員会」で「脳の死をもって、人間の死と判定することには時期が早い」と問題を10年先送りにする結果をもたらしました。その後世界の医学は臓器移植に関して非常に進歩し、多数の若い医者が養成されています。

また多数の臓器移植を必要とする患者さんが外国で手術を受ける事実が重ねられました。これらの状況に長年危機感を持っていた心臓外科医の方々の努力や、理解を示した人々により、ようやく国会で「脳死」が容認され法制化されました。

しかし脳死に反対する方々が多いため、臓器移植を行うためには条件が厳しく、法制化から2年間も経過して、本年ようやく新聞やテレビで詳しく報道されたように、心臓や肝臓の移植が行われました。幸いにも成功し、現在に至るも順調に経過しているようです。

関係している医療側の方々は日々相当な努力を続けていると考えられます。是非移植を受けた方々が長期にわたり、有為な日常生活を送れるよう期待したいと思います。

しかし余りに種々の条件を複雑に厳しくしたままであると、今後症例が増加するとは考えられません。私の医院から日赤病院にお願いした脳出血の方々がそのまま亡くなっている場合もあります。家族や本人の事を考えると、治療している医師にとって、わざわざ脳死に至る操作をする事はかなり抵抗もあります。群馬県でも心臓移植が行われる時代がやってくるには、今後なお20年以上を要することになると思われます。ドナーカードを有する方々が現在の何倍も増加し、社会一般の方々の協力が一層強力になることも必要です。医療チームも、日常行われる手術のように、準備し、少ない人数で的確に行われる時は必ず来ると信じています。

(院長)