2000年
11月1日発行
No.83
高次脳機能障害について

 先日、鎌倉中学校の生徒さんと脳の機能について話し合う機会がありました。特に高次脳機能障害について説明して欲しいとの事でした。脳の機能に高次と低次というものがあ
るのでしょうが。早速普通の医学辞書をひもといてみましたが、何ら記載がありません。しかし成書の一部に次のように記載されています。「脳は全身のさまざまな部位から送られ
てくる情報を受け取り、判断し、その対応を指令する働きをしています。この判断には、生後学習によって獲得した記憶、経験、知識に基づくものと、生まれつき持っている無意識的、本能的なものとの二つがあります。前者の働きは主に大脳皮質が営むもので、これが高次神経機能と言われています。」
 この後天的に得られた機能のみ"高次"とするには極めて疑問があります。いろいろな動物が、教えられてもいないのに複雑な行動をして巣づくりをしたり、子育てが出来ることなどを考えてみると不思議ですが、これが本能に基づくもので"低次"な行動なのでしょうか。高次と規定しているのは人類特有の言語に伴った記憶、判断、理性などの機能を言っているような気がします。
 頭部外傷により、高次脳機能障害を伴ったとする新聞記事を見ましたが、記憶障害、言語障害、理性や判断の障害、構成力の障害など大脳皮質の広範な、比較的軽微な損傷を示
唆している可能性があります。大脳皮質にはさまざまな機能が分散されて局在しており、これが複雑な回路で互いに連結しています。連結回路だけを高次機能と考え、これのみが選択的に侵されることは病態的に極めて無理があります。
 いろいろな神経病が現在多数発見されており、その原因や病態などが少しずつ解明されています。総合的な脳の機能も解明されつつあります。アルツハイマー病のような痴呆を主症状とする"高次脳機能障害"の治療も今後10年〜20年でかなり進歩するものと期待しています。
                                   (院長)