2002年
7月1日発行
No.93
自殺について その1

 院内だよりの記事としてはとても皆様に歓迎して戴けない題材です。しかし私の診療の中で、死亡診断書を書くことも重要な仕事の一つです。入院をやめてから、死亡診断書を書く機会は減りましたが、警察医を勤めているため不慮の死亡事件に出動することも時々あります。死亡診断書の中で、大きな割合を占めているのが自殺なのです。
 開業以来28年間、診療中だった方の自殺は十人位になると思います。医者にとってショックなのは、何ら診療中に心の変動さえ知り得なかった事です。また、私の小学校より高校に至るまでの同級生の死も、私には大きな打撃でした。外来診療で常々気をつけようとしているのですが、この方面での修養が足りず、患者さんの悩みを解決してあげた事がありません。
 本年になって、お年寄り二名の方の自殺に遭遇致しました。私の場合には警察医ですから、検死に出動し、警察官の方々と一緒に死亡現場に立ち会わなければならないのです。
 こんな事があると遺族と同様に、私の頭からしばらく事件が離れることがありません。
 最近の二名の方も、老人としては日常とてもしっかりして、老人ぼけのような症状は一切ありませんでした。二十年以上も通院されていたのに、心の一端も見せて戴けず、私にとっては非常に残念です。家族の方も決して常に冷たくした訳ではなく、逆に本人が、家族に迷惑をかけたくないからという短絡的な思考に至ってしまうようです。残された家族にとって不名誉なことでもあるし、心理的打撃は計り知れません。
 外来でも、老人の方に出来るだけ言葉をかけ悩みを聞いてあげたいのですが、老人の方の多くに難聴があり、充分細かな話を聞いてあげられないのが残念です。介護保険も少しずつ改善されてはいますが、体は全く不自由でなく、知能水準が高度に維持されている方々が、「自立」という事で放置されています。この方面でも近い将来、行政も目を向けて欲しいと考えます。
(院長)