日耳鼻発 第64号
                          平成15年7月22日
                     社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
                          理事長 上村 卓也

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労災保険「障害等級認定基準」の一部改正について

 労災保険では、業務上の負傷や疾病等によって身体に障害が残った場合、「障害等級認定基準」によって障害の程度が決定される。
 このたび、耳および口に関する障害等級認定基準の一部が改正された。その概略は以下の通りである。

A 耳の障害
I.難聴の聴力検査方法の変更について
  これまで、難聴の聴力検査方法については、職業性難聴と急性音響性聴器障害
  (災害性難聴)に区分して定められていたが、今回の改正を期に職業性難聴を「騒
  音性難聴」、急性音響性聴器障害を「騒音性難聴以外の難聴」に改め、聴力検査
  の方法を次の通り統一することとなった。
 1.聴力検査の実施時期:騒音性難聴では、85dB以上(従来は90ホン以上)の騒
   音にさらされた日以後7日間は検査を行わず8日以降に行う。騒音性難聴以
   外の難聴では、治癒した後、すなわち療養が終了し症状が固定した後に聴力
   検査を行う(従来は療養終了後、30日ごとの間隔をおいて検査を重ねる)。
 2.聴力検査の方法:検査の方法は従来と同じように、定められた方法で日を変
   えて3回行う。検査の間隔は少なくとも7日はあけること。語音検査は結果
   が適正と判断できる場合は1回でよい。

II.耳鳴について
  認定基準が一部改正され、取り扱いが明確となった。
 1.ピッチ・マッチ検査及びラウドネス・バランス検査(従来は他覚的検査)によ
   って、難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できる場合は第12級とする。
 2. 難聴に伴い常時耳鳴があることが合理的に説明できる場合(従来は合理的に
   説明できるという文言はなかった。合理的に説明できるとは、自訴があって、
   かつ耳鳴のあることが騒音暴露歴や音響外傷等から合理的に説明できるこ
   と)は第14級とする。

B.口の障害
I.そしゃくの機能障害の適用範囲について
  そしゃく機能に障害を残すもの(第10級の2)の適用が、従来の「ある程度固
  形食は摂取できるが、これに制限があって、そしゃくが十分でないものをいう」
  から「固形食物の中にそしゃくできないものがあること又はそしゃくが十分に
  きないものがあり、そのことが医学的に確認できる場合をいう」に改正された。
  「医学的に確認できる場合」とは、不正咬合、そしゃく関与筋群の異常、顎関
  節の障害、開口障害、歯牙損傷等そしゃくができないものがあることの原因が
  医学的に確認できる場合をいう。
  「固形食物の中にそしゃくできないものがあること又はそしゃくが十分にでき
  ないものがあり、」の例として、ごはん・煮魚等はそしゃくできるが、たくあん・
  ピーナッツ等、一定の固さの食物中にそしゃくできないものがある場合が上げ
  られている。

II.味覚減退について
  味覚減退が新たに障害補償の対象(第14級)となった。
  判断基準は頭部外傷、顎関節周囲組織の損傷及び舌の損傷によって生じた味覚
  減退で濾紙デイスク法の基本4味質のうち1味質以上が認知できない場合を味
  覚減退とする。検査の時期は療養が終了して6ヵ月を経過した後に行う。

III.開口障害等を原因としてそしゃくに相当時間を要する場合、新たに補償の対象
  (第12級)となった。
  「開口障害等を原因として」は、開口障害、不正咬合、そしゃく関与筋群の脆
  弱化などを原因としてそしゃくに相当時間を要することが医学的に確認できる
  場合をさす。
  「そしゃくに相当時間を要する場合」は、日常の食事では食物のそしゃくはで
  きるものの、食物によっては相当時間を要することがある場合をさす。