頻尿                            診療案内   return瀬田医院HP
頻尿
Urinary frequency
村井 勝  慶應義塾大学助教授・泌尿器科
--------------------------------------------------
 頻尿は排尿間隔が著明に短縮し,排尿回数が異常に増加した状態をいう.
 一般には1日の排尿回数が10回以上,あるいは就寝後の排尿回数が2回以上を頻尿とすることが多い.
病因と鑑別診断
 頻尿は膀胱および後部尿道の刺激,残尿の存在,膀胱容量の減少,排尿反射抑制路の障害,多尿などに起因して生ずる.
 図1[図]は頻尿を来す疾患の診断のフローチャートを示したものであるが,特に臨床的に頻度が高く大切なのは,下部尿路の炎症(膀胱炎,前立腺炎),腫瘍(前立腺肥大症,前立腺癌,膀胱癌など)などである.
 また下部尿路や腎機能に異常がないにもかかわらず,頻尿を来す心因性頻尿(膀胱神経症)もある.
重症疾患を見分けるポイント
 頻尿のみで直ちに重篤な状態となる疾患はないが,下部尿路の悪性腫瘍および骨盤内臓器の悪性腫瘍による膀胱浸潤を見落としてはならない.直腸診,内診が大切である.
 5〜7日間の抗菌薬治療で改善する単純性尿路感染症以外は,原則として専門医に相談すべきであろう.
治療
 正しい診断のもとに,原因疾患の治療を行うことが肝要である.
 尿路感染症に対しては,尿培養の感受性テストによるが,通常ニューキノロン剤を投与する.
 頻尿治療薬としては,塩酸フラボキサート,オキシブチニン,プロピベリンなどが用いられる.

診療案内   return瀬田医院HP
神経性頻尿
Idiopathic Frequency/Psychogenic Frequency
藤田公生  浜松医科大学教授・泌尿器科
--------------------------------------------------
 基本的には,膀胱における貯尿量の増加を排尿筋の伸展ないし圧の上昇として受容体が感知し,骨盤神経を介して仙髄に伝える刺激が,漠然とした尿意として大脳皮質に排尿行為の開始を要求するものと考えられるが,この機序は複雑であり,まだ明確になっていない.初発尿意は約150mlで生じるが,この尿意を抑制すれば300‐400mlくらいまでは内圧をほとんど上昇させることなく維持される.通常は脳幹の排尿中枢がこれを管理していて,排尿の必要が生じるまで意識下で処理している.しかし神経性(心因性)頻尿の場合には,大脳皮質のほうが積極的に膀胱からの情報を求めている.この場合は排尿筋の伸展よりも,大脳皮質の管理の及ぶ陰部神経が尿道の知覚枝からの情報を伝えて,尿意を生じているようである.
◆治療方針
 基礎疾患のみられない頻尿は神経性頻尿とされるが,神経性頻尿といいきれない,原因不明の頻尿が含まれている可能性がある.
 まず器質的疾患を否定する.器質的疾患のために長期に頻尿が続くと,その結果として二次的に神経質になっていることもある.特に注意する必要のあるのは間質性膀胱炎,およびそれに近い形で発症してくるin situ型の膀胱癌である.
A.原因の理解と納得
 心因性頻尿では上記のような機序を理解し,頻繁に排尿しなくても十分な容量を膀胱がもっていることを納得してもらう.これはむりやり説得するのではなく,患者自身が自分でこれらの事実に気づくことが大切である.
1.排尿間隔 神経性頻尿の場合は,昼間は頻尿だが,夜寝てしまうと朝までほとんど起きないのが特徴である.夜間は長時間排尿しないですんでいることに気づいてもらう.
2.排尿量 起床時最初の排尿で,大量の尿が膀胱にたまっていたことを自分で採尿して納得してもらい,それだけの量を膀胱に保持できるのだという自信をもたせる.さらに24時間の排尿時刻と排尿量を記録してもらうと,多飲など,多尿による排尿回数の増加との鑑別にもなる.
3.正常の現象 試験や重要な会合の前,車に長時間乗るなど,トイレに行けなくなるという不安があると何度もトイレに行きたくなることは,だれにでもある正常の反応であることを理解してもらう.
B.訓練
 腹圧性尿失禁の場合と同様に,外括約筋を強く締めることによって膀胱の内圧上昇にうちかつことができることを教える.これで気が楽になり,自信をもつようになる.そのうえで,ほかのことに注意を向けて膀胱のことを忘れるように指導する.交感神経は排尿筋を弛緩させ(β2受容体),後部尿道を収縮させて(α1受容体),貯尿に働く.一大事の発生したときは排尿のことなど忘れてしまう現象を思い出してもらう.
 以上のような頻尿の機序の理解,暗示,訓練などで多くの例は改善するが,不安や強迫観念にとらわれている場合は,いつでもトイレに行ける状態にして,トイレに行きたいだけ行かせるところから始める.1回排尿量の少なさから頻回にトイレに行くことの無意味さを知り,次第に排尿間隔が延びていく.
C.薬物療法
 補助的に下記の薬物療法を用いるが,頻尿が治まったら投与の必要はない.
処方例 下記のいずれかを用いる
1)トフラニール⇒錠(25mg)1‐2錠 分1‐2
2)バップフォー⇒錠(10,20mg)1‐2錠 分1‐2
3)ポラキス⇒錠(2,3mg)2‐3錠 分2‐3
●患者説明のポイント
・膀胱は十分な機能をもっているので,頻回にトイレに行かなくてもよいことを,実感として納得させる.
・体性神経である陰部神経と交感神経を動員すれば膀胱内圧にうちかてることを教えるが,尿意が抑えきれないときは自由にトイレに行ってよいので,無理してあせらないようにする.

診療案内   return瀬田医院HP

神経性頻尿
Idiopathic Frequency/Psychogenic Frequency
西沢 理  信州大学教授・泌尿器科
--------------------------------------------------
 神経性頻尿(idiopathic frequency/psychogenic frequency)とは,前者(idiopathic frequency)が原因となる器質的疾患が見出されず,原因不明の本態性頻尿であり,後者(psychogenic frequency)が原因として心因性要因を把握できた心因性頻尿である.後者は成人女性と学齢期の小児に多く,主に昼間の排尿回数が増加する.なお,頻尿の基準は排尿間隔でみると2時間以内であり,回数でみると昼間が8回以上,夜間が3回以上である.
診断のポイント 問診により頻尿をきたした心理的要因を把握する.泌尿器科的検査により,器質的疾患の存在を除外する.頻尿以外の自覚症状の聴取,検尿所見,排尿チャート(排尿時刻,排尿量を記録)の検討,尿流測定および超音波検査による残尿測定は患者に対して侵襲がない検査である.症例によっては膀胱内圧測定が必要となる.また,女性患者では婦人科的検査も重要である.
◆治療方針
 心因性要因が明らかな症例には泌尿器科的検査所見について十分な説明をして,器質的疾患の存在が否定できることを理解してもらった後,心療内科医に紹介して心身医学的治療を行う.器質的疾患が見出されず,原因不明の本態性頻尿が疑われる症例には薬物療法を行ってみる.薬物療法としては膀胱活動を抑える目的で,抗ムスカリン薬,平滑筋弛緩薬などが使用される.
処方例 処方例1)‐4)のいずれかを用いるか,1)あるいは2)と,3),4)を適宜組合せて用いる
1)バップフォー⇒(10,20mg) 1‐2錠 分1
2)ポラキス⇒(2,3mg) 2‐3錠 分2‐3
3)ブラダロン⇒(200mg) 3錠 分3
4)トフラニール⇒(25mg) 3錠 分3

診療案内   return瀬田医院HP

心因性頻尿
大久保 総一郎  新潟大学小児科
--------------------------------------------------
 心因性頻尿とは尿路に器質的疾患が存在しないにもかかわらず,膀胱に貯留した尿量に関係なく,精神的圧迫,感情の興奮などによって起こる頻尿である.午前中に多く就寝時には消失し,1日のうちでも変動がみられ,周期的あるいは間欠的であることが特徴である.いわゆる神経質などの情動障害を認めることが多いが,診断に際して器質的疾患の除外が重要である.
 年齢別病態
 幼児期〜学童期 幼児期では20%に,学童でも10%に頻尿がみられるとされ,男児の第一子に多い.大部分は心因性であり,入園・入学,幼稚園・小学校での生活場面や,疾病罹患後,ピアノの練習,親の叱責などの家庭生活に原因があることが多い.予後は良好で,多くの場合数日〜数週間で自然消失する.
 思春期・青年期 男女比1:1に近づくが,なお男性に多い.自我の確立時期にも一致し,対人恐怖症的性質を帯びてくる.
 中高年 尿路感染症の頻度が高くなることや,性的サイクルの影響を受け女性に多くなる.

■治療
 治療の根本は精神療法である.患者の訴えを受容し,適切な治療により軽快,治癒すること,本態は心身症であり不安,緊張,葛藤により出現していることを納得させる.幼児期〜学童期の小児に対しては,環境への配慮を指導し,予後良好であるため親がゆったりとした気持ちで症状の軽快まで時間を待つことを勧める.
 この時期の症例には薬物療法は不要のことが多い.一方,病態の悪循環を断ち切る目的で薬剤を用いることは有用である〔抗不安薬,抗うつ薬,膀胱平滑筋収縮抑制薬,副交感神経(コリン)遮断薬,自律神経調整薬,漢方薬などが使用されているが,前3者が一般的である〕.
◆処方例 8歳,24kg(尿意切迫なし).(1),(2)のいずれかを用いる.
 (1)トフラニール⇒(10mg) 2錠 分2 朝・昼
 (2)セルシン⇒(2mg) 2錠 分2 朝・昼
◆処方例 10歳,33kg(尿意切迫あり)
 (1)ブラダロン⇒(200mg) 2錠 分2 朝・昼
◆処方例 15歳,45kg(尿意切迫あり).(1)と(2)を併用する.
 (1)ポラキス⇒ (2mg) 3錠 分3 毎食後
 (2)ソラナックス⇒(0.4mg) 3錠 分3 毎食後

診療案内   return瀬田医院HP

神経因性膀胱
Neurogenic Bladder
本間之夫  東京大学講師・泌尿器科
--------------------------------------------------
 神経因性膀胱とは,神経疾患が原因となった膀胱の(そして,しばしば同時に尿道の)機能障害をいう.病因にはさまざまなものがあるが,病態を把握するには病歴だけでは不十分で,残尿測定・尿流率測定・膀胱内圧測定は必須で,さらに尿道内圧測定・内圧尿流検査・外尿道括約筋筋電図検査なども必要となることが多い.より専門的には,透視下にもしくはambulatory(移動式)の器具を用いて,上記の検査を行うこともある.検査結果の解釈は複雑となるが,膀胱・尿道の各臓器別に蓄尿相と排尿相に分けてその機能障害を評価すると,全体像を把握するのにはわかりよい.
◆治療方針
 多くの場合,原因となっている神経疾患は難治性のため,排尿症状の改善と上部尿路の機能の保全が治療の中心となる.
A.蓄尿相の膀胱機能障害(過活動膀胱)を主徴とする場合
 仙髄の排尿中枢より上位の神経疾患が原因となることが多い.
1.尿道機能が正常の場合 橋排尿中枢より上位,すなわち大脳の病変が原因となることが多い.症状は頻尿・尿意切迫感・尿失禁などである.下記の薬物療法がよく用いられるが,夜間頻尿の強い場合などは,水分摂取の調整などの生活指導が有効である.尿意切迫感の強い例では,電気刺激療法や磁気刺激療法が奏効することがある.
処方例 下記のいずれかを用いる
1)バップフォー⇒錠(10mg)2錠 分1‐2
2)ポラキス⇒錠(2,3mg)1‐3錠 分1‐3
3)トリプタノール⇒錠(10,25mg)1錠 分1 眠前
 高齢者では少量から開始して漸増する.
2.排尿相の尿道機能障害(排尿筋外尿道括約筋協調不全)を伴う場合 胸髄・頚髄の損傷では排尿時に尿道括約筋が協調して弛緩せずに,逆に反射性に収縮することがある.症状としては,頻尿や尿失禁に加えて,尿線の途絶がみられる.また排尿時の膀胱内圧が上昇するために,上部尿路に尿のうっ滞が生ずる危険がある.治療には薬物療法も試みられるが,間欠的自己導尿などの補助的治療手段や,括約筋切除や尿路変向などの手術的治療を必要とすることが多い.
処方例 上記1.の処方例に加えて,下記のいずれかを用いる
1)ハイトラシン⇒錠(0.5mg)2‐8錠 分2‐4(保険適用外)
2)エブランチル⇒カプセル(15mg)2‐3カプセル 分2‐3
3)ミニプレス⇒錠(0.5mg)2‐8錠 分2‐4(保険適用外)
B.排尿相の膀胱機能障害(低活動膀胱)を主徴とする場合
 仙髄の排尿中枢,およびそれより下位の神経疾患が原因となる.二分脊椎,下腹部の手術や糖尿病などが原因として多い.症状としては排尿困難・尿意の喪失が主体となる.残尿量が大きくなると尿路感染・水腎症などの危険が高まる.薬物療法はあまり有効ではないので,間欠的自己導尿やカテーテル留置といった補助的治療手段を主に用いる.
処方例 下記のいずれかを用いる
1)ベサコリン⇒散(50mg/g)0.6g‐1.0g(製剤量)分3‐4
2)ウブレチド⇒錠(5mg)1‐3錠 分2‐3
C.蓄尿相・排尿相ともに異常がある場合
 複数の神経疾患・他の尿路疾患・認知障害などが共存する場合には,病態が複雑となる.十分正確な評価に基づいて,症状の改善と腎機能の保持という2つの目標にかなう治療方法を選択する必要がある.薬物療法では十分ではなく,間欠的自己導尿やカテーテル留置といった補助的治療手段が主に用いられる.

診療案内   return瀬田医院HP

神経因性膀胱*
Neurogenic Bladder
安田耕作  千葉大学助教授・泌尿器科
--------------------------------------------------
診断のポイント
【1】神経障害がある.同時に排尿障害が起こった.
【2】神経障害が固定しない間は排尿障害の型が変わる.
【3】蓄尿障害は排尿症状として頻尿,尿意切迫,尿失禁がみられ,尿流動態検査では排尿筋過反射か尿道不全の型をとる.
【4】排出障害は排尿困難,2〜3段排尿,尿閉の症状を示す.尿流動態検査では排尿筋無緊張,低緊張か排尿筋括約筋協調不全を示す.
【5】幼小児では二分脊椎,青壮年では外傷性脊髄損傷,高齢者では脳血管障害を原因とするものが多い.

移送の判断基準
【1】外傷性脊髄損傷や脳血管障害例では,これらの基礎疾患に対する処置で移送されるが,ショックによる尿閉であることを忘れてはいけない.
【2】急性期の移送時の尿路管理は14〜16Fの細いバルーンカテーテルをできるだけ無菌的に留置し膀胱過伸展を防ぐ.
【3】基礎疾患治療中および治療後も導尿が不適切であると,膀胱過伸展や尿路感染が起こるために神経因性膀胱は不適当にしか回復しないので,尿路の状態をチェックすべく定期的に泌尿器科医へ受診させる.

症候の診かた
【1】神経因性膀胱症状は,原因疾患により経過に差はあるものの急性期,回復期,慢性期と変わっていく.
【2】急性期は排尿筋は無緊張で,完全尿閉であることが多く,回復期は排尿反射の不十分な時で尿失禁はみられるが残尿が多い.これらの時期に適切な尿路管理がなされると,慢性期には神経障害に合致した神経因性膀胱の型をとるようになる.
【3】急性期で尿失禁のある場合,多くは横溢性尿失禁であり放っておくと膀胱は過伸展のため不可逆性の排尿筋断裂を起こす.回復期で1回排尿量が増しても残尿は多量にあるので,見かけ上の排尿改善にごまかされないようにする.慢性期核上型神経因性膀胱で反射性排尿や尿失禁がみられるべき症例で尿閉である時は急性期の膀胱過伸展,排尿筋括約筋協調不全が考えられるので尿流動態検査が必要である.

検査とその所見の読みかた
【1】排尿障害は膀胱機能障害と尿道機能障害の組み合わせで起こる(表1[表],図1〜3[図][図][図]).膀胱内圧測定,尿道内圧測定と尿流測定が基本検査であるが,外括約筋EMG,直腸内圧測定やX線透視などが適宜追加される.
【2】急性期は図3[図]の膀胱および尿道が低緊張状態の所見で,回復期は図2[図]の過緊張状態の所見と考えたいが,末梢型神経因性膀胱では,この時期も低緊張状態となる.慢性期では,神経障害に見合った状態に落ち着く.
【3】神経障害の部位別にみた尿流動態所見では,脳疾患では排尿筋過活動と括約筋無抑制弛緩を示し,脊髄損傷では排尿筋過反射と排尿筋括約筋協調不全を示す.末梢神経障害では通常低緊張状態を認める.
【4】上の所見は慢性期の所見であるが,主たる所見は脳疾患では30%,脊髄疾患では80%,末梢神経障害では70〜80%に認められる.その理由は脊髄排尿反射中枢が第2〜4仙髄に存在し,これより上位の神経障害では過活動を示し,これより下位の神経障害では低活動となるためである.
【5】尿流動態検査は複雑で面倒な検査なので,必ずしもすべての泌尿器科医にできるとは限らない.そこで最も簡略で示唆に富む検査をあげなければならないであろう.それは図4[図]に示すように膀胱撮影につづく排尿時膀胱尿道撮影である.造影剤注入時に膀胱が急に丸くなれば排尿筋過活動,排尿時に膀胱頚部および外尿道括約筋部がくびれた型をとればそれぞれ括約筋協調不全が推定できる.

確定診断のポイント
【1】経過の判明した神経障害があり,排尿障害を認め排尿症状を引き起こしうる尿流動態検査所見が整ったとき確定診断を下す.
【2】第2‐4仙髄より上位の神経障害を認め,刺激および閉塞症状があり,排尿筋過活動や,排尿筋括約筋協調不全を認めるも外尿道括約筋EMGでは神経障害パターンを認めない場合は核上型神経因性膀胱である.第2‐4仙髄以下の神経障害を認め,閉塞症状を主とし排尿筋低活動で外尿道括約筋EMGが神経障害パターンである場合は核・核下型神経因性膀胱と診断する.

鑑別すべき疾患と鑑別のポイント
【1】前立腺肥大症⇒や尿道狭窄のような下部尿路通過障害
@直腸診による前立腺肥大をみる.
A排尿時膀胱尿道撮影による尿道狭窄の確認
【2】心因性排尿障害
@自己顕示の強い性格など,性格の異常がある.
A精神的な動揺を起こすきっかけがはっきりしている.

予後判定の基準
【1】原因が多岐にわたっているので重症度分類はない.予後を判定する因子として,神経障害の重症度より障害部位(自己導尿ができるか否か)や,尿路管理を助ける人がいるかいないかなどの方が大切である.
【2】神経因性膀胱で予後を左右する最も大きな病態は,腎不全と尿路感染より発生する敗血症である.この状態になりやすい原因疾患は重症糖尿病,頚髄損傷で膀胱尿管逆流現象のある例と痴呆に合併する水腎症である.これらは尿路管理が不良であるときわめて予後不良である.
【3】上記以外の神経因性膀胱の予後を判定する手段は,膀胱撮影による膀胱変形を検索するのがよい.変形が強くなるに従って膀胱尿管逆流現象や尿路感染症の頻度が高くなることが確認されている.

経過観察のための検査・処置
【1】表2[表]に示す検査を年に1〜2回励行する.
【2】膀胱撮影により,膀胱変形が進行しているかどうかを経時的に観察することが大切である.
【3】尿路感染や尿路結石は,膀胱変形を起こす大きな原因なので必ず検索すべきである.

治療法ワンポイント・メモ
【1】治療の目標は正常の排尿に戻すことであるが戻せないことが多いので,バランス膀胱の状態にするよう心がける.バランス膀胱とは十分な膀胱容量を有し,残尿率が20%以下で,排尿間隔が,2時間以上でその間に尿失禁がなく,残尿が100ml未満の状態である.
【2】残尿が100ml以上あれば間欠自己導尿を4回/日行う.
【3】尿路感染,膀胱結石や腎結石は早急に治療する.
【4】残尿が100ml前後の例ではα‐ブロッカーの投与が有効である.切迫性尿失禁には抗コリン薬が有用であるが残尿量の増加に注意する.
【5】以上で対処できないときは尿流動態検査が必要であり,手術が必要な場合もあることを銘記する.

診療案内   return瀬田医院HP

自律神経障害(シャイ・ドレーガー症候群を含む)
Disorders of Autonomic Nervous System(including Shy−Drager Syndrome)
水澤英洋  東京医科歯科大学教授・神経内科
--------------------------------------------------
 自律神経系は呼吸,循環など生命維持に重要な機能を無意識で自動的にコントロールしている.自律神経系は視床下部‐脳幹‐脊髄と中枢を経て末梢神経となり,途中で自律神経節でシナプスを介して標的臓器に至る.各臓器は通常拮抗する作用をもつ交感神経系と副交感神経系とからの二重支配を受け,両者のバランスによってうまくコントロールされている.
主な自律神経症状
(a)瞳孔:Adie緊張性瞳孔,Horner症候群,Argyll Robertson瞳孔
(b)呼吸:睡眠時無呼吸症候群,いびき,過換気症候群
(c)循環:起立性低血圧,食後性低血圧,Raynaud現象
(d)腸管・排便:下痢,便秘,麻痺性イレウス
(e)排尿:頻尿,尿失禁,排尿困難,尿閉
(f)性機能:インポテンス
(g)唾液腺・涙腺:流涎,唾液分泌低下,涙分泌亢進・低下
(h)発汗:多汗症,無汗症
(i)栄養:褥瘡,皮膚,骨萎縮
(j)その他:睡眠障害,過眠,不眠,痛み
自律神経障害をよくきたす疾患
(a)中枢神経疾患:多系統萎縮症(Shy−Drager症候群で起立性低血圧や排尿障害が著明だが,オリーブ橋萎縮症や線条体黒質変性症にもみられる),Parkinson病,進行性自律神経機能不全症,脊髄損傷,脳血管障害など
(b)末梢神経疾患:糖尿病,家族性アミロイド性多発ニューロパチー,全身性アミロイドーシス,Guillain−Barre症候群,急性間欠性ポルフィリン症,急性汎自律神経異常症,反射性交感神経性ジストロフィー,Fabry病など
◆治療方針
A.基本方針
 まず,原因の診断が第一でありその治療を行う.特に急性汎自律神経異常症では血漿交換などの免疫療法が有効なことがあり重要.しかし原因治療のない変性疾患はもとより,一般に神経障害の回復は遅いので早期から対症療法による症状軽減も大切である.
B.起立性低血圧
 程度により頭痛・頭重感,あくび,倦怠感,肩こり,立ちくらみ(めまい感,視力障害),失神,として訴えられる.
1.薬物治療 まず抗パーキンソン病薬,利尿薬など降圧作用薬の中止等を考慮する.昇圧にはシナプスでのノルエピネフリン代謝抑制薬リズミック⇒,α1受容体刺激薬メトリジン⇒,ノルエピネフリン前駆物質ドプス⇒,血管拡張抑制薬インダシン⇒,循環血漿量増加薬フロリネフ⇒などを用いる.交感神経作動薬では不整脈など,インダシン⇒では消化性潰瘍などの副作用とともに,臥位高血圧にも注意する.
a.軽症例
処方例 1)‐3)のいずれか,またはその組み合わせで用いる
1)エホチール⇒錠(5mg)6錠 分3
2)ジヒデルゴット⇒錠(1mg)3錠 分3
3)リズミック⇒錠(10mg)1‐2錠 分1‐2
b.中等症例
処方例 4)‐6)のいずれか,またはその組み合わせで用いる
4)ドプス⇒カプセル(100mg)3‐9カプセル 分3
5)メトリジン⇒錠(2mg)1‐4錠 分1‐2
6)インダシン⇒カプセル(25mg)2‐3カプセル 分2‐3(保険適用外)
c.重症例
処方例 7)を単独,または4)‐6)と組み合わせて用いる
7)フロリネフ⇒錠(0.1mg)1‐3錠 分1‐3(保険適用外)
2.生活指導 @塩分摂取を心がける,A臥位や座位からの起立はゆっくり行う,B排尿は座位で行う,C起床時布団のなかで体を動かして「エンジンをかけてから」ゆっくり起立する,D大食を避け食後(食後性低血圧)や入浴時には特に注意する.
3.理学療法 弾性ストッキングや腹帯を使用する.
C.排尿障害(⇒神経因性膀胱の項参照)

診療案内   return瀬田医院HP