聴診器よもやま話 2012年11月28日 homepage.htm へのリンク
メタボリックシンドローム( metabolic syndrome)代謝症候群
私が帰路のバス内で説明したお話です
メタボリックシンドローム解説
代謝症候群 (Metabolic Syndrom)
50年くらい前までの日本人の死因は結核、肺炎、脳血管疾患が主体でしたが、最近では
悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患、が三大死因です。
近年日本人の衣食住が欧米化するにつれ疾病構造も欧米化しています。
即ち、悪性新生物と心疾患が増加して、脳血管疾患は減少しています。
これらの疾患の変遷が、長い人類の進化の過程において、たった50年程度で遺伝要因を
大きく変えたとは考えがたく、環境要因、すなわち生活習慣因子と外部環境因子により、
疾病構造が変化してきていると考えるのが妥当でしょう。
心疾患の増加はどのような事に原因しているのであろうか。生活習慣病の主役である
心疾患の大部分の生活習慣因子としての環境要因、例えば栄養、運動、休養、喫煙、飲酒
などに関連し、外部環境因子としてはストレス、環境汚染、気候、地理的条件などが挙げられ
ます。
1)肥満と脂肪細胞
肥満の成因は遺伝30%、環境70%といわれている。
身体中の脂肪細胞の数は成人ではほとんど変わらず、脂肪細胞の中には中性脂肪のかた
まりである脂肪球があり、これが正常以上に増加して脂肪細胞が肥大した状態が脂肪細胞
肥大型肥満である。
腹膜や肝臓などに沈着する脂肪細胞、いわゆる内臓脂肪がメタボリックシンドロームに大き
な影響を及ぼしている。
脂肪組織の重量は正常者でも体重の10-20%、肥満者においては40-50%にもなり、巨大なひ
とつの臓器と見なすことができる。
最近の研究によるとその脂肪細胞は単なる脂肪を蓄える細胞ではなく、アディポサイトカイン
という生理活性物質すなわち分泌蛋白を産生し、インスリン感受性や糖・脂肪代謝さらには
血圧の調節にまで関与し、脂肪細胞自体がインスリン抵抗性やメタボリックシンドロームの
発現を規定し修飾していると考えられている。
現在、アディポサイトカインには血栓形成に関係した
PAI-1(Plasminogen Activator Inhibitor ?1)、
肥満、摂食、耐糖能と関わりの深いレプチン、インスリン抵抗性を引き起こす
TNF(Tumor Necrosis Factor)―α、
動脈硬化、高血圧、インスリン抵抗性と関連するアディポネクチンなどが解明され、脂肪細胞
はメタボリックシンドロームの本質に関わると言っても過言ではない状況となった。
2)高脂血症
HDL(善玉)コレステロールは動脈硬化巣からコレステロールを引き離し、肝臓へ運ぶ作用
を有し、抗動脈硬化作用を担っている。
中性脂肪の原料は摂取した糖質と脂質であり、おもに肝臓と脂肪組織に蓄えられる。
糖質(ブドウ糖)はインスリンの影響を受けて肝臓に中性脂肪となって蓄えられ、さらに肝臓
から放出されて脂肪細胞内にふたたび中性脂肪となって貯蔵される。
また、糖質が直接インスリンの作用を受けながら脂肪細胞に取り込まれる代謝経路も存在
する。
食物の脂肪は酵素の働きで分解されて脂肪細胞に中性脂肪のかたちで蓄えられる。
動脈硬化の発症機序と中性脂肪の関連は未だ充分に解明されていないのが現状である。
3)高血圧
高血圧症の治療目標値をかなり厳しく設定することによりメタボリックシンドロームを予防
することができる。
メタボリックシンドロームの人に発症する冠動脈疾患は血圧を正常化させることにより、男性
の28%、女性で13%に予防することが可能であるといわれている。
生活習慣の是正による収縮期血圧の低下は、減量で5-20mmhg/10Kg、
食事で6-14mmHg、減塩で2-8mmHg、運動で4-9mmHg、達成することができるという報告
もなされている。
4)インスリン抵抗性
インスリンは膵臓から分泌され糖代謝や脂質代謝に関連しているが、その重要な働きは
血糖値を一定に保つことにあるが、インスリンによる血糖降下作用が低下した場合を
インスリン抵抗性という。
インスリン抵抗性が生じた状態では、骨格筋、脂肪細胞、血管内皮細胞などのインスリン
受容体の働きが低下して、ブドウ糖の細胞内への取り込みが抑制され、肝臓でのブドウ糖放
出が促進されている。
膵臓から分泌されるインスリンは血糖を下降させるため代償性に増加して高インスリン血症
となる。
さらに進行すると膵臓のインスリン分泌能力の低下ないしは枯渇が生じて、血糖値が上昇
し、いわゆる生活習慣病に起因する2型糖尿病へ推移する。
その結果、糖質の処理能力の低下、脂肪代謝異常、血管の弛緩反応低下による血圧上昇
などが生じてくる。
この状況になるとインスリン抵抗性を基盤とした、メタボリックシンドロームの危険因子がつぎ
つぎと誘発され、放置すれば動脈硬化症となり、ついには冠動脈疾患や脳血管疾患の発症
に至るものと考えられる。
5)遺伝、その他の因子
メタボリックシンドロームの発症には遺伝的に3−4個以上の互いに独立した病態が関与
し、複数の遺伝子がその発症にかかわる複合遺伝形質と考えられている。
そのほか最近の知見によれば動脈硬化の要因として慢性的な炎症や血栓形成が背景に
潜んでいるともいわれ、また自律神経のアンバランスがメタボリックシンドロームに関与してい
る可能性が報告されている。
メタボリックシンドロームの診断基準
動脈硬化性疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)の危険性を高める複合型リスク症候群を
「メタボリックシンドローム」という概念のもとに統一しようとする世界的な流れの中、
日本肥満学会、日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本循環器学
会、日本腎臓病学会、日本血栓止血学会、日本内科学会の8学会が日本におけるメタボ
リックシンドロームの診断基準をまとめ、2005年4月に公表しました。
基準作成の中心となられたのは、内臓脂肪症候群の提唱者であり、世界のメタボリック
シンドロームの基準策定にも貢献された松澤佑次先生で、従来から本サイトの監修者でもあり
ます。今回の内科学会の会頭として公表の場を設けられました。
(詳細は日本内科学会雑誌に掲載)
本診断基準では、必須項目となる内臓脂肪蓄積(内臓脂肪面積100平方cm以上)の
マーカーとして、ウエスト周囲径が男性で85cm、女性で90cm以上を「要注意」とし、その中
で
@血清脂質異常(トリグリセリド値150mg/dL以上、またはHDLコレステロール値40mg/dL
未満)
A血圧高値(最高血圧130mmHg以上、または最低血圧85mmHg以上)
B高血糖(空腹時血糖値110mg/dL) ---の3項目のうち2つ以上を有する場合をメタボリック
シンドロームと診断する、と規定しています。
内臓脂肪蓄積
ウエスト周囲径 男性 85cm以上
女性 90cm以上 + 以下のうち2項目以上
(内臓脂肪面積100平方cm以上に相当)
血清脂質異常 血圧高値 高血糖
トリグリセリド値 最高(収縮期)血圧 空腹時血糖値
150mg/dL以上 130mmHg以上 110mg/dL以上
HDLコレステロール値 最低(拡張期)血圧
40mg/dL未満 85mmHg以上
のいずれか、又は両方 のいずれか、又は両方
* CTスキャンなどで内臓脂肪量測定を行うことが望ましい。
* ウエスト径は立位、軽呼気時、臍レベルで測定する。脂肪蓄積が著明で臍が下方に偏位
している場合は肋骨下縁と前上腸骨棘の中点の高さで測定する。
* メタボリックシンドロームと診断された場合、糖負荷試験が薦められるが診断には必須で
はない。
* 高TG血症、低HDL-C血症、高血圧、糖尿病に対する薬剤治療をうけている場合は、それ
ぞれの項目に含める。