杉山恵一先生講演会要旨
作成:西野仁美 (内容についてお問い合わせは事務局へ) ホームへ 会議19年度
高崎市総合福祉センターにて、平成19年5月19日午後2時より
「自然と子どもにやさしい街づくり・・・生き物がいる自然を取り戻す」
<自然復元研究の動機として、子ども時代の自然体験がルーツになっていると感じる>
戦争前後に子ども時代。惨めではなかった。
ガキ大将仲間と、日暮れまで遊んだ。危険な目にもあったが物ともせず遊んだ。
身近な自然があった。伝統的農村、田園、小川、神社、里山。
中学まで昆虫採集した。高校で生物クラブ。大学、大学院でも昆虫関係。
<1970年代の自然保護活動の盛り上がりと特徴>
この頃日本国内の環境問題がピーク(公害、汚染物質、ヘドロ、イタイイタイ病、鉛公害など)
市民の反対運動も盛んだった。各県に自然保護団体ができた。歴史的状況
1971年に環境庁ができた。各県に自然保護課、環境課ができ、自然保護が常識に。。
宇宙飛行により「宝物の地球 only one earth」というイメージ。
学術上貴重な自然、手付かずの自然保護が主流。(常識になった)・・・尾瀬のようなもの
<1980年代後半の自然保護活動に新しいテーマが出現>
身近な自然の荒廃が進展していた。杉山先生以上の年齢の人に同じように認識している人が多かった。
人間が作り出して維持していたもの
農村の近代化・・・農薬、除草剤、化学肥料、コンクリートの水路、建物の変化
里山・・・・人の手を掛けたもの
野生生物も密度高くいた。生物豊富な環境だった。
身近な自然が貧弱に・・・。子どもにとっての貴重な自然体験の場、技術を学ぶ場だった。
<身近な自然の再生回復の運動の広がり>
ある年代以上は同じように危機感をもっていた。自然環境再生の動きは国際条約でもプッシュされていた。
今の子どもは王子様。自然体験だけは不足。若者の事件と自然体験不足は関係あるのでは・・・。
自然再生の行政・・・【生物多様性保全条例】 【自然環境再生法】 【環境教育推進法】
<スライド説明>
伝統的農村風景・・・水田、小川、池、沼、多孔質な農家、裏山・・・・・生物の食料と住処を提供していた
里山・・・薪炭林、間伐必要、林床植物が豊か、ほったらかしで下草がうっぺい。
近代的ビル・・・生物いない。昔の農家は生き物と共存。孔の多い構造による共存。
水辺・・・湿地帯(水際が大切、今は垂直のコンクリート)、ため池(除草剤で生き物も植物のない池に)
亀が甲羅干しできない池(丸太を入れて救われている例)
多孔質空間・・・・自然石の積み重ね(今はコンクリート)、木材の積み重ね(カミキリムシなどの住処)
落ち葉(今はゴミ・、腐る過程はミクロコスモス)
<ビオトープ作りの広がり>
日本では日本庭園のイメージと技術があった。(狭い空間に多様な自然の構造物を詰め込み生き物が
住むのに適している)・・・ビオトープ作りが全国に広がるには、文化的背景も。
一方で、本来のビオトープと違ってチマチマした自然志向になってしまっている。
<さまざまなビオトープ作りの例>・・・スライド多数
静岡大学、ゴミ焼却場、北海道の川、三島湧水、藤枝のビオトープ公園、北海道の西岡公園、厚木基地
そばの川、敦賀市深田の東京ガス基地に農村ビオトープ、岩倉自然生態園(神社と湿地)、名古屋の
ビル屋上の田んぼ、焼津サッポロビール園の湿地、京都操車場跡地の農村体験ビオトープ、高知県のビオ
トープ公園 など
<川ガキ指数>
水辺の自然度がアップすると、子どもが水辺に出現することで、自然度を計る指数。
嘘のような本当のはなし。
<ビオトープ作りと市民参加>
市民が設計段階から関って作ったビオトープ公園は、その後の活動も発展している。
定期的観察会。作業参加など。(岩倉)
行政が、さっさと作った処は苦労している。(高知)
講演会: 質疑応答、参加者の意見など(その1)
1)株式会社ヤマトの相見さん・・・ビオトープの管理について
平成11年に杉山先生を講演会にお呼びした。その講演会が今回のような形で発展してうれしい。
会社では、平成12年から13年4月にかけて、200坪のビオトープを作った。7年目になる。
質問:外来種のこと・・・基本的には手を入れないが、強いものは手で抜いている。
アメリカザリガニが入って、ヤゴみんなやられた。狭い空間では棲み分けは無理と・・。
どうしたら、よいか?
<杉山先生のお話し>
日本でのビオトープ作りはヨーロッパとは違う自然が相手・・・維持管理がかかせない
日本の自然は亜熱帯で、力強い。手入れをしなければ維持できない。
外来種の植物は多いので、全部はとてもはいじょできない。悪性のものだけ除去する。
日本では雑草を刈らないと、草地は3年でセイタカアワダチソウの純粋原になった。
ドイツでは、5年後でも、草が3〜40センチの高さ。
水系は特に老化の問題がある
池は1〜2年で形が整わないうちにクロスジギンヤンマが来て感激。
ザリガニの侵入で、ヤゴやられる。
池の老化に関る「浮泥(ふでい)」・・・雨水に混入する細かい粒子が底にたまると酸欠
池の水を抜くこと・・・一度「浮泥」がカラカラに乾くとOK.。魚だけ避難。他の生き物 は、すぐに復活する。
池はいじっていた方がよい。水草除去したり、藻をすくったり。(西野が聞いた話)
浮泥が溜まるとボウフラもいなくなる。ザリガニも死ぬ。
昔のため池は、水が全部抜けるようになっていた。
ビオトープもそのような仕組み必要。(後になってわかったこと)
2)布施さん・・・ビオトープへの生き物の持ち込みについて
多孔質空間やビオトープを作るとお金を掛けたものはすぐに結果を求める傾向があり、生き物の定着を
待てずに、他所から生き物を持ち込むこともある。特に外来種のこと、国内でも離れた地域のもの(ホタル
など)、ハイブリットめだかなど、問題では・・・。
<杉山先生のお話し>
基本的には、人工的な生き物の繁殖、生き物の移動はしない。住宅供給公団で建物は作るが、コミュニ
ティーの中身作りは しないのが原則。ホタルは人気なので、問題視されている。
<ホタルについて>
西野・・・ホタルに関る市民活動の杉山先生の分類による4段階。
(ホタル移入、幼虫移入、ホタル再生、生態系再生)
活動の進展を期待するより、初めから良く考えて活動しないと、カッパピアでも問題になるのでは。
布施・・・自然では定期的に流れが変わって、ホタルも増減するが、いなくはならない。
3)竹内さん・・・ビオトープで水系を作る留意点
ビオトープで水系を作るときに、密度の高い水系を目指すのに、流れがなくても良いのか。深さは?
<杉山先生のお話し>
昆虫には、深くない方がいい。10センチくらいで、流れているほうが良い。
さらに、栄養があって、流れているほうが良い。
水草を植えると、ヨシ、マコモなどが繁殖して水面が上がって駄目になる。
ヨシは1メートルの深さにならないと芽を出すのを防げない。深いと子どもが溺れる危険が出る。
4)西野・・・ビオトープ公園内の危険に対する考え方
溺れることの他に、ハチや蛇などのこと、ゾーニングの例など、お聞きしたい。
<杉山先生のお話し>
ハチはアレルギーの問題があるので、除去するようにする。
不快植物(アメリカセンダングサ、ウルシなど)も取らざるを得ない。
島のようなものなら、ゾーニングして立ち入りを制限することも可能。
入ってもらいたくないところには「マムシ危険」と書くとよい。(笑)
講演会: 質疑応答、参加者の意見など(その2)
5)西野・・・ビオガーデン、バタフライガーデンについて
<杉山先生のお話し>
ビオガーデンと言う言葉は、私が作った。
ドイツ語なら「ビオガルテン」、英語なら「バイオガーデン」にするべきだが、バイオでは「バイオ
テクノロジー」の遺伝子保存の場所と言うイメージになるので、ビオガーデンにした。
ビオトープは生態学的言葉で、門外漢には特殊な言葉。一方、ガーデニングの人口は多い。
一つ一つの個人の庭は小さいが、町全体にすると、大きなものになる。生き物にとっても大切。
各家庭の庭に多少ともビオトープを取り入れて領土を広げようという魂胆。
先生の家の庭も半分が奥様のハーブ園になっている。
先生の領分のビオトープとハーブ園の生き物調べをしてみた。
昆虫類は、奥様のハーブ園のほうが多かった。ハーブ園には、吸蜜昆虫など。いつも花がある。
先生のビオトープ(水辺と樹)とハーブ園が相互補完的役割で、生物の種を最大限生かせている
と考えるようになった。
6)天田さん・・・ビオトープの危険な生き物について
自分の家で自然の庭を作っている。ハチなども害虫と見なさないで、危険を回避する技術や
知恵を子どもたちに教えることも必要ではないか。
ハチは益虫という面もある。化粧品を付けない、明るい色の衣類を着るなどの工夫必要。
7)西野・・・学校ビオトープについて
<杉山先生のお話し>
ドイツなどで始まったビオトープの考え方は、ビオトープは100%生き物のためで、人間のためと
考えない。
学校ビオトープは目的からして、ビオトープとは言えない。ビオガーデンといってもよい。
学校ビオトープは関西で盛ん。
維持管理しないと荒廃するが、ビオトープは、荒廃してもビオトープ。別の形にしようとするのも勉強。
一定の条件が失われても失敗とは言えない。なにか作ればなにかがある。荒廃しても案外生き物はいる。
まじめに、こうしなければと堅苦しく考えない。教育を意識しないほうがいい。
<株式会社ヤマトの経験>
会社にビオトープを作ったので、学校ビオトープの相談を受けることがある。
群馬県は「学校ビオトープコンテスト」の応募がなくて、さびしい。
ビオトープ作りには、多くの人と相談し多くの子どもの考えを聞くことが大切と思う。
付近の生態系を調べることが大切と考え、会社ではビオトープ作りの前後で、生き物を調べて
変化を見ている。鳥は14種から28種になった。
<杉山先生のお話し>
学校ビオトープには、矮小化と定型化の問題がある。
学校にはもともと樹木がたくさんある。それもビオトープと考えてよい。池とはかぎらない。
先生は、生き物の名前を聞かれて分からないと困ると思っているが、日本生態系協会の指導でも、
名前を教えるなと言っている。その前に、よく観察することが大切。名前を聞くとわかったような気に
なってしまう。 ニックネームで読んでも良い。興味があれば、あとで、名前を調べてもいい。
<鼻高小の先生>
学校の回りは自然に恵まれているが、子どもは、興味を持たない。
学習としては、外に連れ出して周囲の自然に触れたほうがいいのか。あえてビオトープを作って
みたほうがいいのか?
<杉山先生>
学校の中にビオトープがあると、落ち着いて、毎日観察できるというメリットがある。
外に目を向けることも大切だが、外は、案外落ち着いてじっくり活動できない。
周りの自然に恵まれていても、学校ビオトープの意味がないということはない。
8)山本さん・・・長い目で、日本にあった自然保護を
9)北村さん・・・ビオトープは本当の自然とはいえないのでは
ビオトープ作りにより、望まない結果も生まれることを考えておくべき。蚊やハエなど。
カッパピアも広い視点で再生を考える必要がある。
10)布施さん・・・蚊やハエがいないのが果たして住みよい町か?蚊やハエも多くの生き物を養っている。
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