ステロイドについて
ステロイドはたとえていうなら,「よく切れるナイフ」です.上手に使えばおいしい料理ができますが,下手をするとケガをします.ケガをするから使わないかと云うと,料理をするためにナイフを使います.
私たち皮膚科を専門とする医師は,このステロイドの使い方についてのトレーニングを受けています.そして,患者さんが受診したときにその使用について,助言と指導を行います.何故なら,上にも記したように“上手に使わないとケガをする”からです.従って,患者さんは必ず受診していただき,診察を受けなければなりません.「薬だけ(処方のみ)」希望されるのは,極めて望ましくない行為です.
ステロイド外用剤(塗り薬)について
皮膚疾患の治療には,ステロイド外用剤が多用されます.様々な基準(注1)によって,概ね4から5段階にランクの強さに分類(注2)されています.更に各薬剤は,主剤(お薬の部分)と軟膏・クリーム・ローション・スプレー・テープなどの基剤から成っています.私はステロイド外用剤の強弱を参考に,皮疹の部位や状態に適した処方を心がけています.
患者様の中には,ステロイドの全身投与(内服・静脈注射)と局所投与(主に外用)による副作用について混同される方が多く見られます.外用剤について云えば全身に対する副作用はほとんど心配なく使うことができます.しかし,副作用(注3)はあります.主なものは使用した部位にのみ生じるものと考えて良いのです.しかもそのほとんどは使用を中止することで回復します.ですが,例えば顔面にその副作用が生じた場合,回復までの期間,その方にとって美容的問題が生じてしまいます.従って私は,顔面へのステロイド外用を極力避け,使用する場合は,極めて慎重になり尚且つ厳重に経過を観察します.
(注1)様々な基準:血管収縮試験,皮膚委縮試験,下垂体副腎抑制試験,臨床効果
(注2)分類:抗炎症活性によるグループ分け・薬効による分類・臨床効果・強さのランク付け・有効性による順位・局所作用・全身性影響による順位など様々
(注3)副作用:皮膚委縮(薄くなって紙の様に,弱い力が加わっただけで切れてしまうこともある),毛細血管拡張(皮膚の浅いところの血管が浮き出て,赤い線のように見える),酒さ様皮膚炎(顔面に用いた時,酒焼けしたような赤ら顔になってしまう),感染症(水虫・タムシ,毛嚢炎,ウイルス性のイボなどを作りやすくする),接触皮膚炎(全ての外用剤に共通する.ステロイドに限った話ではない)など
ステロイドの内服薬(飲み薬)について
内服の場合は外用と比べてかなり違います.その効果は絶大ですが副作用も注意が必要です.従って,その適応症と投与量には十分注意を払わなければ成りません.私は皮膚科医ですから,皮膚疾患の治療の立場から述べたいと思います.
ある疾患においては,ステロイドの全身投与(内服や注射)が必要なことがあります.しかし,皮膚を治そうとする場合でも,全身投与では皮膚のみならず,肝臓にも腎臓にも肺にも消化管にも,まさに全身に影響を与える可能性があります.従って副作用も全身(注4)の諸臓器及ぶことを忘れてはならないのです.
私はステロイドの内服を用いるのは次のようなときに限っています.
1.原因がはっきりしており,尚且つ一時的なとき.
2.症状が著しく強いか,ほぼ全身に及ぶとき.
3.患者さん本人もしくは保護者が投与の必要性と,副作用を理解してくれて,経過を観察できるとき.
1は,ステロイドの使用を短期間(1週間以内と考えている)でやめることができるからです.副作用のほとんどは短期間の使用ではほとんど現れないからです(基礎疾患があるときは増悪させることがあります).2は,広い範囲に外用剤を使用するのは,患者さんに外用という労働を強いることになるからです.3は,特に経過の観察が重要なのですが,上にも記したように,効果も絶大ですが,副作用を持つお薬と考えているので「投薬しっぱなし」にしたくないのです.
例えば,アトピー性皮膚炎にはどうするか?症状は全身に及んで,強い痒みを伴う皮疹が拡がっている,ダニとハウスダストが原因(?)と云われた,経過も観察できる.基本的に使いません.原因は本当にそれだけか?アトピー性皮膚炎の原因は複数のものが複雑に作用していると考えているからです.しかも内服ステロイドの効果は絶大なために短期間で済まなくなることがあるからです.
それ以外のときはどうするか?私は市井の一開業医ですから使いません.ステロイドを長期間に及んで用いる必要があるときは,副作用や様々な合併症に注意し,総合的に治療する事態(入院を含む)が予想されるので,総合病院の立派な先生方にお願いすることにしています.
(注4)全身への副作用:感染の増悪・誘発,糖尿病,消化潰瘍,高血圧,骨粗しょう症,精神症状,ニキビ,多毛