(incl. アレルギー,蕁麻疹,手荒れ・主婦手湿疹,イボ,ミズイボ,水虫,単純疱疹,帯状疱疹,疥癬)
「湿疹・蕁麻疹」,一般の方は痒みを伴う皮膚の変化をよくこう表現しますが,これは全然違うものです.皮膚に現れる肉眼的変化は「皮疹(発疹)」と言います.(下に列記した疾患の解説には図を添付しましたが,学術的な写真です。人によっては気分を害する方もいるかも知れませんが,そのような方はご覧にならないで下さい。)
アトピー性皮膚炎およびステロイドについては,それぞれ別に記載してあります。御参照下さい。
「花粉症対策」を追記しました。'07/02/17
アレルギーとは,非常に難しいのですが,身体の外から身体の中に入ってくる異物に対する生体の反応のうち,「生体(個体)に不利益をもたらす,あるいは,有効な制御が行われない反応」と言えます.「生体(個体)に利益をもたらす,あるいは,有効な制御が行われる反応」を「免疫または免疫がついた」といって,ヒトは喜びます.どちらも基本的に同じまたは同じような反応がおこるのです.
反応を生じるにあったっては,まず「異物」を「異物」として身体が覚える必要が有ります.初めて出会った物質は,まだ「異物」として身体が覚えていませんから,身体は反応しません.その時「異物」として身体が覚えてしまえば,次に出会った時は反応がおこります.従って,よく「これは今まで使っていたから関係ない,大丈夫」とおっしゃる方がいますが,「初めての物質に対して,アレルギー反応は起らない」のです.逆に,接する機会が多ければ「異物」として身体が覚えるチャンスも増えるわけで,アレルギーになる可能性が出てきます.但し,通常長期間に渡り頻回に接していても反応が起らなければ「その物質はその個体に対して「異物」と認識されにくい物質であろう」と言う推定は成り立ちます.
代表的なアレルギー反応として「花粉症」,中でも「スギ」は超有名ですが,スギ花粉症の患者さんは「初めて日本のスギ花粉に接した」のではなく,何年にも渡りスギ花粉に曝された結果,ある時それを身体が「異物」と認識し(ある容量をこえて)次にスギ花粉に接した時にあのアレルギー反応を生じるのです.「今までこんなことはなかった,初めてだ!」とおっしゃる方がいますが,最初は誰でも初めてです.(こちらに「花粉症対策」を掲載しました。)
蕁 麻 疹:(図1)通常,蚊に刺されたような紅く,強い痒みを伴う皮疹が生じ,数十分~数時間で跡形無く消失する.教科書的には24時間以内となっている.掻き傷だけが残っていることがある.一定の間隔(数時間から24時間)で繰り返すことが多い.一ヶ月以上繰り返すものは「慢性蕁麻疹」といわれる.
(急性)蕁麻疹は1週間程度抗ヒスタミン剤・抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー剤を内服すれば多くの例では軽快しますが,慢性蕁麻疹は治療が長期に及ぶことがあり,「これをちゃんと治せれば,皮膚科として一人前」と,ある本には書いてあった.
抗ヒスタミン剤は,簡単に云うと生じている痒みを「取り除く」薬剤ではなく,痒みを「生じさせないようにする」薬剤なので,痒くならないように用いるのが効果的です.
発疹を生じるのはアレルギー反応と同様の機序ですが,「アレルゲン(アレルギーの元)」が,はっきりしないこともしばしばあります.アレルギー反応は,「身体の外から身体の中に入ってくる異物」に対する反応ですが,例えは食べ物や薬は積極的に取り入れるものですが,病原微生物(ウイルスや細菌)は勝手に,知らぬ間に入ってきてしまうものです.従って,食べ物で生じることもあるし,薬を飲んで生じることも,所謂「風邪」を引いても生じることがあります.しかし,これらを皮疹から特定することは極めて難しいです.詳しい問診をすれば判るコトモアル…程度です(怪しそうかどうかくらいは判ることはあります).よく「内臓が悪いのではないか心配!」とおっしゃるかたがいますが,ほとんど見たことがありません.但これは関係ないというわけではなく,病原微生物(ウイルスや細菌)が内蔵に居ればそれが原因ということはあり得ます(ウイルス性肝炎,胃潰瘍など).
手荒れ・(主婦)手湿疹:利き手の手指を中心にガサガサになったり(手荒れ),痒みを伴う水疱ができたりジクジクしたり(湿疹)します.いわゆるお肌の弱い人,多くはアトピー性皮膚炎を背景に持つ人によくできます.その名の通り主婦の職業病的な側面があります.
一旦手湿疹ができてしまうと,水で手を洗っただけでも悪くなります.まして,洗剤やその他の化学物質をや,です.手はこの世に存在する,ほとんどあらゆるものを触るから厄介です.皮膚は外界の様々な刺激から体を守るバリアです.バリアが壊れたところに,様々な刺激が加わり続けていると炎症(湿疹)が持続します.壊れた角層は乾燥すると爪のように硬くなり,引っ掛かったりして気になります.ガサガサを無理やり千切ったりすると,このバリアを壊してるのと同じになります.
炎症を改善するためにはやはりステロイド外用剤を使います.外用剤は弱いものから強いものまで様々ありますが,残念ながらいちばん効果があるのは手の保護です.具体的には水仕事をするときにゴム・ビニール手袋を使うことです.どんなに強い薬を使っても保護できなければよくなりません.保護できれば,少し強い薬を使うだけでも効果は期待できます.治療の成果は薬の強弱でなく,どれだけ保護できるかに大きく依存しています.でも,全く水に触らない生活は現実的には不可能です.水仕事の後には保湿剤をガンガン使って下さい.
一度良くなったら,それで永久に湿疹ができなくなるわけではありません.弱いお肌を改造したわけではないのです.今度は良好な状態を維持するために手袋・保湿剤で保護する,お手入れを欠かさないことです.
イ ボ(尋常性疣贅):(図2)ウイルスが皮膚の細胞に感染することによってできます.足の裏にできると「うおのめ」や「たこ」と間違えて放置されたり治療されたりします.「ウイルス感染症」ですから,通常接触によってうつります.気にしていじってるとその指にできたりします.私は普通液体窒素による凍結療法を行います.手術による切除は,傷に新しく感染させる危険性があるので,通常禁忌とされてます.
ミズイボ(伝染性軟属腫):尋常性疣贅と同様にウイルス(軟属腫ウイルス)が皮膚の細胞に感染することによってできます.小児期に多く見られます.俗名が悪く「水」を介してうつる印象を与えたり,中に水が入っているように思われている様ですが,誤解です.基本的には直接的接触によって感染します.「感染している皮膚」と「防御能の低下した皮膚」が触れあう事で伝染します.「プールでうつる」と言われるのは「露出する面積が大きく」「密な接触が起る」からであって,「プールの水を介して」感染が生じる証拠は無いとされています.
治療について医師の中でも意見は別れている様です.私は個人的に次のように考えています:ウイルス感染症ですから抗体ができればいつか必ず治る.但し,「いつか」は予測できず,一ヶ月後の事もあるし,一年あるいは三年後かも知れない.その間に増える可能性は高い.「抗体ができるのを待つ」のも選択枝の一つでしょう.しかし,放置して無数になる恐れも,他の人に感染させる事もあるわけですから,何かしらの治療はすべきと思います.所謂「ピンセットで除去する」方法も,ある種の漢方薬を継続的に飲む方法もあります.患者さん(実際にはほとんどが保護者)に治療法の選択枝を示し,御希望に沿う方法を行います.
水 虫(足白癬):(図3)趾間型,小水疱型,角化型などがあります.通常は痒いのですが,角化型などは痒みを伴わず,「わたしのカカト荒れてるの」と見過ごされてることもあります.また,爪にもできて,ただ爪が変形してるとか,「オレ,カルシウム足りねーかな?」など,とんでもない見当違いされてることもあります.
水虫は『虫』ではありません.皮膚糸状菌という「カビ(真菌)」の仲間が皮膚に感染して起こる病気です(この糸状菌を顕微鏡で確認することによって診断が確定します).カビですから,高温・多湿で栄養(ケラチン蛋白=アカ)のあるところではよく育ちます.
治療には抗真菌剤を外用します.爪の場合は薬剤の浸透が悪いので内服することもあります.一般の方は症状のあるところのみの外用でやめてしまうことが多いのですが,靴に隠れるような範囲は全て塗ることを指導してます.効く薬を3ヶ月くらい塗り続けることが大切です.患部にビラン・亀裂などがあると症状を増悪することがあるので,これらの症状を改善してから外用してもらうようにしてます.
ニ キ ビ(尋常性ざ瘡):(図4)顔,胸,上背部の毛包一致性に生じる慢性炎症.思春期によく見られます.重症例では膿腫(膿がたまった袋)状になったり,硬くしこりができて肥厚性瘢痕状になったりする.
皮脂の過剰分泌と毛穴の閉塞によって毛包内で細菌が増殖することがきっかけで始まる炎症ですから,治療としては,
1.化粧をしない/極く短時間にする→毛穴を塞がない.
2.よく洗顔する→余分な皮脂と毛穴のフタを除去する.
3.塗り薬・飲み薬を使う.
となります.人によっては特定の原因・きっかけで悪くなることがあり,それがわかって,避けられるものなら避けることも大切です.女性の中には月経周期に一致して悪くなる人もいますが,これは避けられません.ある教科書には「チョコレート,落花生,コーヒー,もち,クルミ」などが食事性の原因としれ書いてありました.皆がこれらでなるわけでもないし,症状からこれらを推定することはできないので,患者さん本人が生活を省みて考える必要があります.私の知っているある皮膚科医(男性)は,「焼き肉を食べた翌日に悪くなる」と言ってました.
残念ながら現在のところ「ニキビを無くしてツルツルのお肌にする」治療はありません.治療の目的は症状の軽快とその維持になります.当院では上記1を指導して,2として洗顔石鹸等の御紹介をしてます.3としては皮膚の炎症を抑える抗菌剤の内服や外用剤,時には漢方製剤を用いています.
単 純 疱 疹(単純ヘルペス):(図5)皮膚粘膜移行部,つまり口の周りや陰部に好発するウイルス(単純ヘルペスウイルス,herpes simplex virus; HSV)による発疹.口唇ヘルペスは俗に「熱の花」とも云われるように,風邪を引いて熱が出たときなど体調不良のときに繰り返し生じることが多い.初感染の大多数は症状の無い不顕性感染.
1日目:ムズムズ・ピリピリ.2~3日目:発赤・腫脹~小水疱.4~5日目:水疱が破れてビラン~かさぶたになる.6~7日目:自然に治ってくる.と言うのが,ほぼ典型的な経過.基本的には(密な)接触により感染する.例外的に存在する抗ウイルス剤で治療します.
帯 状 疱 疹:(図6)水痘(水ぼうそう)のウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス,varicella-zoster virus; VZV)が,再活性化されて生じる.一定の神経領域に片側性に小水疱を生じ,紅斑を伴うこともある.痛いのが特徴の病気で,時に激しい.帯状疱疹としてうつることはないが,未感染者には水ぼうそうとしてうつることがある.放置しても2~3週くらいで治ることは治りますが,後に痛みを残すことがあります.(単純ヘルペスと同様に)ほとんど例外的に,抗ウイルス剤が存在し治療に使われている.
体のどの部分にも発症し,痛みが特徴ですから,頭にできると脳外的疾患と間違えられ,「CTを撮りますから,3日後に検査を受けて下さい」とか,左胸にできると,心筋梗塞と間違えられあれやこれや検査を組んだり,下肢にできると「坐骨神経痛です」と言われたり,湿布を処方されたりします.発疹に気づかなかったり,気づいてもかぶれと間違ったりします.例外的に存在する抗ウイルス剤は病気の初期にはよく効きますが,理論的には治りかけには効きが悪いので,大切なのは「疑って観ること」です.
疥 癬:疥癬(かいせん)は,疥癬虫(別名ヒゼンダニ;図7)が人の皮膚の最も外側を覆う角質層に寄生して起こす痒みの強い皮膚疾患で,人から人へと感染する皮膚感染症の一つです.
今はもうムトーハップはあまり使われないようです。基本的に内服薬が主役なってます。
古典的治療例として下記の記述も残しておきます。(2008. 11/9加筆)
以下に当院で用いてるパンフを掲載しました.
基本的に,人の皮膚でのみ生息可能で,いわゆる風邪のように飛沫感染することはありません.感染の機会は,患者と密接な接触や同衾(一緒に寝ること)によるため,家族内や寮などに集団的に発生することが少なくありません.また,患者の衣服や寝具を介して感染が成立することもあります.
感染から3週間から1ヶ月の潜伏期間を経て発症し,一般には強い掻痒があり,夜間に増強します.
確定診断には皮疹部から虫体や虫卵を検出することが必要です.
湿疹,アトピー性皮膚炎,接触皮膚炎,蕁麻疹や他の昆虫刺症などとの鑑別が必要です.これらの疾患と間違って治療すると,かえって悪化します.
主に手指間,上腕,前腕,腋窩,大腿部,陰部に好んで寄生し,頚部から上の皮疹は希ですが,新生児や高齢者あるいは免疫不全状態では全身に拡がることもあります.
治 療
ダニを殺すのは「イオウ」です.(余談:「温泉が皮膚病に効く」と云われてますが,多分,かつての日本の皮膚疾患の多くが,一説には1/3がこれなので,そのように云われてるのであろうと考えてます.確かにイオウ泉は疥癬に効きますが,現在疥癬患者の数はかつて程多くないので,一般の皮膚病には効かないか悪くなることがあります.)
“イオウサリチル酸チアントール軟膏(黄色くて,少し硬い)”を処方します.一日一回首から下の全身に塗布して下さい.この軟膏は刺激が強いので1〜8時間後薬浴して洗い流して下さい.
“オイラックス軟膏(白くて柔らかい)”を処方します.一日一回以上塗布して下さい.痒みがあったら何度塗布していただいても結構です.
痒みが強い間は,掻き壊さないように痒み止めを内服していただくこともあります.
「イオウ」は皮膚に刺激があるので,カサカサした状態になることがあります.これにより何か別の不都合があれば,すぐご相談下さい.
通常1〜2週後と,必要に応じて時々虫体や虫卵を再検査します.
しっかりと治療が行えれば,4〜6週で治りますが,薬浴ができなかったり,体の御不自由な方は3ヶ月くらい治療を続ける必要があります.完治するまで継続的に治療することが必要です.自己判断で治療を中断しないで下さい.
ご家族や同居されてる方,またはそれに準じる方がいらっしゃれば,必ず受診させて下さい.
(2006年8月から,イベルメクチンという内服薬が治療に使えるようになった。)
(現在,可能な患者さんには内服薬を用いてる。'09. 05 31追加)
生活上の注意
感染力が強いので,少なくとも薬浴はご家族全員で行うことを強くお勧めします.
患者さんの衣類やブラシは共有しないで下さい.これらのものは可能なかぎり,60℃のお湯に10分間浸して消毒して下さい.
お部屋は少し丁寧に掃除機をかけたり,バルサンなどのダニ退治も有効でしょう.基本的には人の皮膚でのみ生息できるダニですが,浴室や布団のように,高温多湿でエサ(アカ)のある様なところでは感染の危険性が高まります.
お友達の家へ泊りに行ったり,お友達等を泊めるのは控えて下さい.
公衆浴場の利用は控えて下さい.