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アトピー性皮膚炎の治療についての考え



 ステロイド外用剤に加え,「プロトピック軟膏」という商品がここ数年使わています.ステロイドに見られるような副作用が少なく,軽快を維持できる期間も長いようで,ある医者は「これこそ根治薬である」とまで言ってました.当院でも多くの患者さんにお使いいただいてますが,現在までのところ特に大きな問題もなく,かなり効果的であると考えてます

(下に掲載した文章は「アレルギーの臨床16:1011,1996.」に掲載されたものです。)

はじめに

 アトピー性皮膚炎(AD)は,我々皮膚科医や小児科医が日常診療において遭遇する疾患の中で,極めて一般的な疾患の一つであろう.多くの研究報告などから,その発症には免疫学的機序が中心的役割を果たしていると考えられている.ADに見られる組織学的所見は慢性接触性皮膚炎のそれに類似しており,AD皮疹は遅延型アレルギー反応に基づいて生じると考えられている.しかし,ADの発症は極めて複雑で,決定的な治療法,あるいは原因に対する治療法は困難なことが多い.
 ここではAD患者を治療する時どのようなことを考えているのか,私的見解を述べたい.

増悪因子について

 皮疹の増悪因子として,共通してみられるもの,あるいは大きく関与していると推察されているものがいくつか挙げられる.
 多くのAD患者ではダニ抗原に対する特異的IgEが高値であり,患者リンパ球が,健常人に比べ有意に高い反応性を示すことが報告されている.特に成人型ADでは,その関与が強く推察されている.また,AD皮疹部において,表在性細菌巣が多いことは古くから知られていた.近年,黄色ブドウ球菌が出す外毒素がスーパー抗原として作用し皮疹の増悪に関与ていることが報告されている.
 精神的ストレスの関与を疑わせる症例にもしばしば遭遇する.中・高生患者で,定期試験の度に皮疹が増悪する例や,会社における人間関係の問題で皮疹の状態の変化が見られる例もあり,これらは神経蛋白と免疫の関わりを示唆するものと考えられる.
 その他に,外用剤による悪化も注意しなければならない要素と思われる.非ステロイド外用剤のみならず,ステロイド外用剤による接触性皮膚炎も時に見られることがある.また,光線過敏を示す患者も存在することを留意すべきであろう.

治療法と日常生活指導

 原因療法が困難なので簡潔に言えば対症療法である.従って,治療の目的は治すことでなく,薬剤を用いて皮膚の状態をコントロールすることとなる.また,症状の変化から,日々の生活上の主たる増悪因子を発見することが重要であると考えている.
 治療の中心となるものは,やはりステロイド外用剤である.ADは慢性疾患であり,ステロイド外用剤の長期連用となるので,その有用性と予想される副作用について十分説明した上で,原則として顔面には極力ステロイド外用剤を用いないようにしている.また,他の部位においてもなるべく弱めのものでコントロールすることを目標にし,年齢や皮疹の部位と性状を考慮して,ステロイド外用剤の強弱を目安に使い分けている.
 内服薬として,抗アレルギー剤・抗ヒスタミン剤で患者の掻痒感を軽減することは,もう一つの大きな柱といえる.その効果は症例による個体差があり,有効な例では2週以内に効果が見られるものがほとんどなので,それを目安により有効な薬剤を選択すべきであると考えている.これらに加え漢方製剤も時に有効な例が見られる.掻爬は重要な増悪因子なので,特に幼小児では,掻かせないことが大切であると考えている.また, 表在性細菌巣のコントロールを目的に,抗生物質の内服や,消毒薬の外用も有効なことがあり,併せてスキンケアの重要性も十分説明している.また,民間療法を患者が望めば,増悪因子を見つける上でも重要なのでそれを明らかにして併用してもらう.

おわりに

 ADの発症は極めて複雑であり,それを明快に説明できないために,患者側に理解してもらえないことも多い.さらに患者側には玉石混淆の情報が氾濫している.このような状況の中で,より良い治療を行っていくには,やはり患者側と医師の信頼関係を築くことが重要であると考えている.